小林 眞一郎 ou2株式会社 常務取締役 二級FP技能士
2022年に公布され2025年4月1日から施行の建築基準法改正では、木造3階建て住宅の設計や施工に関する複数の変更が予想されています。
しかし、「建築基準法は専門的な用語が多く、理解が難しい」「改正される内容や重要なポイントをわかりやすく知りたい」と感じている方も少なくないでしょう。
そこで本記事では、改正される建築基準法の内容やその背景についてわかりやすく解説します。また、木造3階建て住宅を建設する際に考慮すべき対応方法についても、具体的に説明します。木造3階建て住宅や共同住宅を建設しようと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
建築基準法は、住環境の安全性や快適性を確保するために定められた法律で、技術の進歩や社会情勢の変化、災害の教訓を踏まえて、繰り返し改正されています。2025年4月の改正では、建築物の省エネ性能の向上や耐震性、防火性などが強化されるほか、新たな設計基準や検査項目が義務化される予定です。
この改正の背景には、2050年までのカーボンニュートラル実現や、2030年度までに温室効果ガスを2013年度比で46%削減するという国の目標があります。建築分野はエネルギー消費の約3割、木材需要の約4割を占めており、省エネ化や木材利用の拡大が重要視されています。また、過去の災害を踏まえた安全性向上の必要性や、都市部での住宅需要増加に対応するための木造住宅の性能強化が求められていることも理由です。
さらに近年では、建築物の断熱性向上や快適性の確保などを目的に、階高を高くした建築物へのニーズが高まっています。このような背景を受け、階高の高い3階建て木造建築物などに対応した構造計算の合理化も進められています。
今回の建築基準法改正で木造3階建てに求められている主な変更点は、以下の3つです。
それぞれ詳しく解説します。
2025年の建築基準法改正により、木造3階建ての耐震性の強化が求められています。耐震性の強化に関する主な変更点は、簡易な構造計算で建築可能な木造建築物の範囲が拡大されることです。詳しくは、以下の表をご確認ください。
現行 | 高さ13m以下かつ軒高9m以下は、二級建築士でも設計できる簡易な構造計算(許容応力度計算)で建築可能 |
改正後 | 簡易な構造計算の対象を高さ16m以下に拡大 |
2025年4月からは、高さ16m以下の木造建築物であれば、二級建築士でも設計できる簡易な構造計算を活用できます。その結果、設計が容易になりつつ、安全性も確保されることがメリットです。一方で、建築基準法改正による建物の重量化も避けられない流れとなっており、これに伴う耐震基準の強化が求められています。
2025年の建築基準法改正では、木造建築物の防火性能の向上も求められています。耐火性能に関する主な変更点は、以下の通りです。
現行 | 耐火性能が要求される大規模建築物において、壁・柱などのすべての構造部材を例外なく耐火構造にする必要がある |
改正後 | 防火上・避難上の問題がない範囲内であれば、部分的な木造の使用が可能 |
現在、延べ面積が3,000㎡を超える大規模木造建築物では、主要な構造部を耐火構造にするか、3,000㎡ごとに高い耐火性能を持つ構造体で区画する必要があります。耐火構造を選択する場合、木造部分を石膏ボードなどの不燃材料で覆わなければならず、木の質感が感じにくかったり、設計の自由度が制約されたりなどの点がデメリットです。しかし改正後は、延べ面積が3,000㎡を超える大規模木造建築物においても、構造材として使用される木材をそのまま表現する『あらわし設計』が認められます。
ほかにも、階数に応じた耐火性能基準の合理化により、中層建築物でも木材の使用がより容易になるように変更されます。
新たな改正により、住宅の防火性能を確保しつつ、木材利用が促進されることは大きなメリットでしょう。さらに、多様な建築デザインが実現しやすくなる点も注目されています。一方で、火災対策や防火区画の強化は引き続き求められるでしょう。
2025年の建築基準法改正では、採光規制の合理化も進められる予定です。採光規制に関する主な変更点は、以下の通りです。
現行 | 住宅の居室にあっては、その床面積の1/7以上の大きさの採光に有効な開口部面積の確保が必要 |
改正後 | 原則1/7以上(政令措置予定)としつつ、一定条件の下で1/10以上まで必要な開口部の大きさを緩和可能 ※緩和条件については検討中(2025年1月時点) |
現行では、住宅の居室に必要な採光を行うために、床面積の1/7以上の開口部面積の確保が必要です。しかし、事務所やホテルといった採光規定が適用されない建物を住宅へ用途変更する場合などは、この規定が大きなハードルとなっています。
今回の改正では、住宅の居室の採光に有効な開口部面積を原則は1/7以上としつつも、一定の条件を満たしていれば、1/10にまで開口部の大きさを緩和できるようになります。採光面積に関する規制緩和が進むことで、改修工事の負担が軽減されるため、利用需要が減少したホテルやその他の建物のリノベーションが促進されるでしょう。
2025年4月から施行の建築基準法改正により、木造3階建て住宅に関する新たな基準が適用されます。この改正には、設計や施工に大きな影響を与える変更が含まれているため、正しい対応方法を講じることが重要です。ここでは、改正への具体的な対応方法を4つ紹介します。
一つ目の対応方法は、最新情報の確認と専門家に相談することです。
改正に関する最新情報は、以下の方法で確認できます。
また、改正に基づいた設計方法や施工方法については、専門の建築士や設計事務所に相談することをおすすめします。プロの手を借りることで、正確かつ実践的なアドバイスを受けられるでしょう。
二つ目の方法は、設計段階で柔軟に対応することです。特に、耐震性や省エネ性能の強化などは、設計段階での慎重な対応が重要です。また、すべての新築住宅には省エネ基準への適合も義務付けられるため、設計段階で断熱性能やエネルギー効率を高める工夫を組み込む必要があります。
改正に対応するためには、設計プランを慎重に見直し、必要に応じて柔軟に対応していくことが不可欠です。
2025年4月の建築基準法改正により、建築コストの増加が懸念されています。予算内で建築を進めるためには、以下のような工夫が有効です。
これらの対策を組み合わせることで、改正後の新たな要件を満たしながらも、効率的なコスト管理が可能になるでしょう。
建築基準法の改正に伴い、最新技術の活用も効果的な対応方法です。
たとえば、最新の構造計算ソフトウェアを使うことで、許容応力度計算や耐震設計を効率的に行えます。うまく活用すれば、設計の精度も向上し、改正後の新基準に対応した高い安全性を持つ住宅をより容易に実現できるでしょう。ソフトウェアの使用は、設計段階でのミスを減らし、施工の際のリスクを最小限に抑える効果もあります。
最新技術の導入は、改正後の基準に迅速かつ確実に対応するための有力な手段といえるでしょう。
ここからは、木造3階建て共同住宅の建設における課題とその解決策を紹介します。
重要な項目なのでぜひ読み進めてみてください。
3階建ての共同住宅は、2階建てに比べて建築費がかさむ傾向があります。階数が増えることで建築面積が広がり、階段や住宅設備など、追加で必要となる設備が増えることが理由です。3階建ての木造共同住宅の建設費を削減するためには、以下の方法を組み合わせると効果的です。
これらの方法を組み合わせることで、3階建て木造共同住宅の建設にかかるコストを効果的に削減し、効率的かつ経済的に建設を進められるでしょう。
木造3階建て共同住宅は、2階建てと比較して施工期間が長くなります。できるだけ早く物件を手に入れたいと考えている場合は、デメリットとなるでしょう。
しかし、2025年4月の建築基準法改正により、3階建ての木造建築物に対して簡易な構造計算が適用されることになります。階数が3以下で高さ16m以下の建物については、より簡易な計算方法が認められるため、設計段階での時間が短縮され、施工開始までの準備期間が短くなる可能性があります。とはいえ、施工期間に関しては通常よりも多めに時間を見積もり、余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。
木造3階建ての施工には高度な技術が必要なため、このタイプの建物に対応できる施工業者は限られています。そのため、適切な業者が見つからない、または選定に時間がかかる可能性があることがデメリットでしょう。
しかし、2025年の建築基準法改正により、3階建て住宅の建設に関する敷居が下がると予想されます。今回の改正では、簡易な構造計算で建築可能な3階建て木造建築物の範囲が拡大されることが理由です。とはいえ、依然として3階建て共同住宅の施工に特化した技術や経験を持った業者の選定は、効率的な施工のために欠かせません。
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2025年の建築基準法改正は、省エネ基準の強化や構造計算の見直し、木材利用の促進などを含んでおり、住宅市場全体に大きな変化をもたらすことが予想されます。この改正による具体的な影響は、以下の3つです。
それぞれ順に紹介します。
建築基準法の改正に伴い、高性能な断熱材や耐震性の高い構造材の使用が義務付けられることで、建築コストの増加が予想されています。新築住宅の価格が上昇すれば、物件を購入する際にかかる初期費用が大きくなる可能性は否定できません。
一方で、省エネ性能の高い住宅の普及が進むという側面もあります。その結果、長期的には光熱費の節約など、購入者にとって経済的なメリットが生まれるでしょう。
新築住宅の価格が上昇することで、中古住宅の相対的な価値が高まると考えられます。特に、適度なリフォームで新基準に近づけられる物件は、コストパフォーマンスの高い選択肢として注目されるでしょう。さらに、中古住宅は新築に比べて初期費用を抑えられるうえ、立地や環境の良い物件を手に入れやすい点も魅力です。
省エネ基準の強化に伴い、リフォームにかかる費用が増加する可能性があります。断熱性能を向上させるために、高性能な断熱材や窓ガラスの導入が必要となることが大きな理由です。また、気密性の向上や省エネ設備の設置など、基準を満たすための追加工事が発生することもコスト増加の要因となります。
一方で、省エネリフォームは光熱費の削減や住宅の快適性向上につながるため、長期的には投資効果を実感できるケースが多いと考えられます。
本記事では、2025年に改正の建築基準法の内容やその背景について解説しました。今回の改正で注目される『構造計算の簡素化』により、木造3階建て住宅の建設ハードルが大幅に下がると期待されています。
これから木造3階建て住宅の建築を検討している方は、改正後の新基準を正しく理解し、それに対応した計画を進めることが重要です。
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2025/01/30
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