小林 眞一郎 ou2株式会社 常務取締役 二級FP技能士
せっかく持っている土地だから有効活用したいが、傾斜地だから用途は限られてしまうしどうすればよいのだろう?売却するしかないのだろうか?など、お悩みの土地オーナーの方は多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、傾斜地であっても有効に活用できる方法やポイントを解説していきます。
傾斜地とは、一般的には斜めに傾いている土地を指しており、そのままでは通常の用途に利用できないケースが多いです。
傾斜があるために、建物の建築にあたっては造成工事など平地に比べて、工事にコストがかかることもありますが、一方で傾斜があるため、日当たりが良いことや眺望がよいことなど、マンションやアパートを建築するメリットも存在します。
そこでまずは、傾斜地の基本的な用語や、特徴について解説していきます。
斜面とは、一般的に水平な面に対して傾斜している面のことを指します。
また、傾斜の程度のことを勾配(こうばい)といい、緩やかな斜面のことは勾配がゆるい、急な斜面のことを勾配がきついという言い方で表します。
一般的には傾斜の角度が30度を超えており、通常の用途に利用できない土地を指しています。
がけ地を活用する場合は、多くの自治体において防災・安全確保の観点から条例で制限を受けることが多いです。
法地・法面は傾斜地であり、建物を建築する部分(つまり宅地)として使用できない部分のことを指します。自然な斜面もありますが、盛り土等により人工的に作られた斜面であることも多いです。
傾斜地に関する基本的な用語をご紹介しましたが、土地活用にあたって事前に確認すべき留意点があることも特徴です。この点も後述します。
一見、活用しづらそうに見える傾斜地ですが、以下のような平地では得られづらいメリットがあります。
斜面の上に建物を建築するため、周辺に同じような高さの建物が少なく、日当たりのよさや風通しのよさが得られることが大きなメリットです。
地価の高い地域であったり、東京都内の住宅密集地などであっても、日当たりのよさ風通しのよさは入居者の集客にあたり大きなアピールポイントになります。
斜面の上に建物を建築するため、日当たりや風通しのよさに加え、眺望がよいことも大きな特徴になります。
入居者集客にあたり、下見に来た候補者には好印象を与えられるポイントになりますし、入居者に対して解放感のある気持ちの良い住環境を提供することが可能です。
一般的に斜面に建物を建築する場合、斜面の高い方については、基礎を深く設置する必要があります。この深い基礎の部分を活用して、地下室を作ることが可能です。
賃貸マンションや賃貸アパート、商業施設の経営において、一般的に建物を大きくする方が収益性が高まりますが、容積率の上限に留意する必要があります。
容積率は、建物の延べ床面積 ÷ 敷地面積で計算することができ、地域ごとに容積率の上限の範囲内で建物を建築する必要があります。
しかし、建築基準法第52条第3項に定めがありますが、地盤面から1m以下に天井を設けた地下室がある場合、建物全体の延べ床面積の1/3までは、地下室部分の面積を不算入とすることが可能です。
出典:建築基準法第52条第3項
例えば、100㎡の土地に、200㎡の建物を建築しようとすると容積率は200%(200㎡ ÷ 100㎡)ですが、地下室部分の面積は最大60㎡(200㎡ ×1/3)までは面積に不算入とできますので、容積率は140%((200㎡ – 60㎡ )/ 100㎡)となります。
尚、傾斜地の特徴を活用すれば、工夫によっては地下室であっても窓を設けることも可能であり、おすすめです。
上記の通り、一見活用しづらそうに見える傾斜地ですが、日当たりや眺望といった住環境のよい賃貸マンションを建設することが可能です。斜面を活用した地下室を設けることで建築面積を最大化し、収益性を高める運用が可能となるなど、実はメリットが大きい土地であると言えます。
では、傾斜地の活用方法はどのようなものがあるのでしょう。代表的な活用方法をいくつかご紹介します。
土地の上に賃貸マンションを建設し、多数の入居者を集めることで安定的に賃料収入を得る活用方法です。傾斜地であることを活用し、日当たりや風通しのよさ、眺望のよさをアピールポイントとして集客することが可能となります。
また、傾斜を活用したデザイン性の高いマンションを建設することができる可能性もあります。
一般的にマンション建設を進める場合、近隣とのトラブルも想定する必要がありますが、傾斜地の上に建設するため、周囲の建物の日当たりや眺望を遮ることが少なく、平地での建設に比べ、比較的トラブルになる可能性が低いこともメリットと言えるでしょう。
上述のとおり傾斜を活用した地下施設の設置など、建物の大きさも確保しやすく、収益性を高める運用が検討できます。
一方で、傾斜地にマンション建設するということは、その分、地盤工事や擁壁工事などに多額のコストがかかる可能性があり、収益性を十分に注視する必要があります。
戸建て賃貸経営は、土地の上に戸建て住宅を建設し、入居者を募り、賃料収入を得る活用方法になります。
日当たりや風通しのよさ、眺望のよさをアピールポイントに集客できる点は、賃貸マンション経営と同様です。
単身世帯よりもファミリー層を対象とする住居であり、一般的に入居期間が長くなる傾向にあることや、傾斜地の特徴を生かし、地下部分を駐車場にするなどの工夫が可能であることも利点です。
賃貸マンションに比べると賃料収入は少なくなりますが、戸建て住宅は木造であることが多く、建物規模からも地盤改良工事にかかる費用が割安になるケースが多い点はポイントです。
太陽光発電システムは、傾斜地に太陽光発電システムを設置し売電収入を得る活用方法です。
太陽光発電設備は、日照量を確保するために、斜めに設置することで発電効率を高めることが一般的ですが、既存の斜面を活用することにより、角度をつけるための架台の工事が不要となる可能性があるなど、初期工事コストが割安になる可能性があります。
居住用建物を建築する際は、地盤改良工事や擁壁工事等のコストがかかることに比べると大きなメリットであると考えられます。
また、集客を考える必要がなく、発電設備を設置するだけで、安定収益が得られる点もメリットです。
ただ、以下2点が留意点になります。
①発電設備の発電量は、天候・日照量に左右されてしまうこと
太陽光発電設備の発電量は日照量によって大きく左右されます。
傾斜地に設置するため、日照量が確保しやすいというメリットはありますが、1日の中で時間帯によっては日照量を確保しにくいなどの事情があると十分な発電量(=売電収入)が確保できなくなる可能性がありますので、設置前の確認は非常に重要となります。
②固定価格買取制度(FIT)の買取価格は年々低下傾向にあること
太陽光発電設備で発電した電気は、「固定価格買取制度(FIT)」の対象です。
固定価格買取制度とは太陽光発電設備をはじめとした再生可能エネルギーで発電された電力を、電力会社が一定期間、固定金額で買い取ることを国が約束する制度のことであり、太陽光発電設備(10kw以上)の場合、20年間の買取が約束されています。
これにより太陽光発電システムを設置すると20年間は安定収益が得られることになります。しかし、2012年度の制度発足以降、段階的に売電単価が引き下げられており、今後この制度がどのように継続されるのか、将来性に不透明な点が残ることは留意する必要があります。
傾斜地の活用にあたっては安全性確保の観点から、自治体から様々な規制をされていることがあり、初期投資額にも大きな影響があります。
事前に確認しておくべき点を以下に記載しています。
建物を建築する際は、地盤調査を行う必要がありますが、傾斜地の場合は、地盤改良工事が必要になることが多く、平地で建築することと比較してコストが余計にかかることが想定されます。
地盤改良工事には表層改良工法や柱状改良工法などいくつか種類がありますが、地盤の強度によって適用される工法が変わってきます。
また、傾斜地に建物を建設するためには造成工事が必要です。造成工事とは、切土や盛り土などにより、土地に建物を建築できる平面な状態を作る工事があげられます。
擁壁(ようへき)とは傾斜地において上方から土砂崩れ等の災害を防ぐために、強化してある壁状の構築物のことを指します。
条例による様々な規制において擁壁の設置を要請されることがありますが、この工事は傾斜地の工事費用の中でも、かなりの負担を強いられる工事になります。
擁壁の種類には「鉄筋コンクリート擁壁」「コンクリートブロック積み擁壁」「石積み擁壁」がありますが、傾斜地に賃貸マンション等の大きな建物を建築する場合などは、最も頑丈な鉄筋コンクリート擁壁を設置することが多いです。
この工事にかかる費用は規模によって異なりますので一概には記載できませんが、数百万円~数千万円の費用になる可能性もあります。
保有している傾斜地にすでに擁壁がある場合は、このコストが抑えられますが、収益性を求め、大きな建物を建設する場合は、ある程度覚悟する必要がある費用になります。
宅地造成等規制法とは、宅地造成による崖崩れ又は土砂の流出による災害を防止するための規制を行う法律です。
宅地造成に関する工事について規制を行う必要がある区域や、宅地造成に伴う災害で危害を生ずる発生のおそれが大きい区域を指定します。
「宅地造成等規制区域」は、宅地造成に伴い災害が生ずるおそれが大きい市街地又は市街地となろうとする土地の区域であって、宅地造成に関する工事について規制を行う必要があるものを、都道府県知事や政令指定市・中核市・特例市の長が指定した区域のことです。宅地造成等規制区域内で、一定規模以上の切土や盛り土を行う場合は、都道府県知事の許可が必要になります。
また、2006年の法改正により、災害対策の観点から「造成宅地防災区域」も導入されています。
お持ちの傾斜地がこれらの区域に該当していないかを確認しておくことが望ましいです。
出典:盛土・宅地防災:旧宅地造成等規制法について(宅地防災関係) – 国土交通省
急傾斜地崩壊危険区域とは、台風や集中豪雨の際に発生する急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)による災害から住民の生命を保護することを目的として、崩壊するおそれのある急傾斜地(傾斜度が30度以上の土地)を「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」(昭和44年施行)にもとづき都道府県知事が指定する区域です。
急傾斜地崩壊危険区域においては、急傾斜地崩壊対策事業(がけ崩れを防止するための工事)を実施するとともに一定の行為が制限されます。
急傾斜地崩壊危険区域指定基準
出典:砂防三法指定区域(砂防指定地・地すべり防止区域・急傾斜地崩壊危険区域)
がけ条例とは、敷地が一定の高さのがけに面している場合に、がけの上または下に建物を建設することを制限する条例のことです。がけが崩れると、がけの上部にある建物は地盤沈下に巻き込まれますし、がけの下部にある建物は土砂崩れに巻き込まれることになります。
自治体によってがけ条例の内容は異なりますが、東京都の場合は東京都建築安全条例の第6条2項に以下の通り定められています。
第6条2項:「高さ二メートルを超えるがけの下端からの水平距離ががけ高の二倍以内のところに建築物を建築し、又は建築敷地を造成する場合は、高さ二メートルを超える擁壁を設けなければならない。」(斜面の勾配が30度以下である場合など、いくつかの緩和要件あり。)
上述のとおり、擁壁工事はかなりの費用がかかる工事となるため、保有している敷地ががけ条例に該当しないか、その場合擁壁はあるか、擁壁工事が必要か、といった点を事前に十分に確認しておきましょう。
出典:東京都建築安全条例
上記のようなメリットや留意点を踏まえ、傾斜地での土地活用を検討するのがおすすめです。
ここからは土地活用方法として賃貸マンション経営を選択された場合に、成功のためのポイントをいくつか記載します。
賃貸マンション経営においては、建物の大きさ・入居者数を最大化することが、賃料収入を中心とした収益性を高めることになります。
一方で、傾斜地のような特殊な地形の土地では、平地と比較して建物の設計難易度が高く、敷地内の面積を最大限に有効活用しづらくなります。
このようなことを踏まえた上で、建ぺい率、容積率を最大化できるような業者を探し、比較して検討しましょう。
M-LINEでは、大手ハウスメーカーと異なり、「1cmピッチでの完全自由設計」を採用しているため、傾斜地などの変形地においても敷地を最大限有効活用する設計が可能です。
上記のとおり傾斜地で賃貸マンションを建設する場合、各種条例や規制の対象となることがあり、擁壁の追加工事が発生するなど、平地にマンションを建設するよりも造成工事等のコストが高額になりがちです。
従って、当然ではありますが、建築コストが安い業者に委託できるようにしっかり選ぶことをお勧めします。
M-LINEでは直接施工のため、間に工務店等を挟まずに、直接職人さんと契約するスキームとなっていますので、中間コストがなく、下請け孫請けのゼネコンスタイルを採用している大手ハウスメーカーよりも工事費用が1~2割程度、割安になるケースが多いです。
傾斜地にマンションを建築することは、平地に建築するよりも、敷地を無駄にしない設計や、安全性に配慮した構造、傾斜を活用したデザイン性の高さといった点にこだわる必要があります。
このようなオーナーの希望・こだわりを叶えられる業者を選ぶことをおすすめします。
M-LINEでは大手ハウスメーカーと異なり、鉄骨の太さを自由に選択することで大空間・大開口などのデザイン性の高いマンション建設を可能にしたり、メリットデメリットを合わせた混構造(「RC造×木造」など)も対応可能であるため、柔軟性の高いマンション建設が可能です。
この記事では、傾斜地の活用方法やポイントについて解説をしてきました。
傾斜地は安全性の観点から様々な条例や法律の規制を受け、擁壁等の追加工事が必要となるケースがありますが、日当たり・風通しのよさ、眺望のよさといった傾斜地ならではのメリットをいかして、賃貸マンション経営、戸建て賃貸住宅経営、太陽光発電システムなどの土地活用が考えられます。
M-LINEであれば敷地を有効活用する設計、大手ハウスメーカーよりも割安な建築コストを紹介することができます。ぜひお気軽にご相談ください。
2024/11/29
2024/11/29
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