小林 眞一郎 ou2株式会社 常務取締役 二級FP技能士
最近、お店と住居が一体となる店舗兼住宅が注目を集めています。店舗兼住宅は、自宅の一部で新たな事業を展開するため、住居とは別の建物や土地を用意する必要がありません。住居費を抑えられるなど魅力も高い一方で、デメリットもあります。
そこで今回、店舗兼住宅のメリットとデメリットについて紹介します。また、店舗兼住宅におすすめの間取りや住宅ローンの組み方についても解説していきますので、参考にしてみてください。
店舗兼住宅とは、店舗と住居が一体となった建物のことを指します。また、住居として自分自身が居住するだけでなく、同じ建物の一部を事業用に利用するために貸し出すことも可能です。
店舗兼住宅は、自宅の一部を使って事業を展開するため、費用を抑えつつ自分のお店を持ちたいと考えている方にはおすすめです。活用できる土地を所有している場合には、店舗と住居の両方を兼ね備えた建物を建てることで、自分のお店とマイホームという2つの要素を同時に実現することができます。
ただし、店舗兼住宅は生活する空間と仕事をする空間が一つになっているため、一般的な住居とは間取りやデザインなどが異なるということを理解しておく必要があります。
店舗兼住宅を建てる前に、メリットとデメリットの両方を考慮した上で検討していくことが大切です。店舗兼住宅を建てる、主なメリットとデメリットについては以下の通りです。
店舗兼住宅のメリット | 店舗兼住宅のデメリット |
---|---|
複数の収入源が得られる | 騒音のトラブルに発展する可能性がある |
住居費を軽減できる | 建物の売却に時間がかかる |
事業展開拡大の可能性がある | 間取り決めが難しい |
店舗兼住宅を建てることで、複数の収入源が得られるなどのメリットがある一方で、騒音問題などのデメリットが発生します。両方を理解して計画を立てることで、メリットを最大に活かせるだけでなく、デメリットによるトラブルに対して事前に対策を立てることができます。具体的なメリットとデメリットについては、以下で紹介していきましょう。
店舗を建てることで、新事業の運用が始まるため複数の収入源が得られます。店舗部分を他人に貸し出すこともできるため、自分自身で経営をしない場合でも収入を得ることは可能です。
店舗兼住宅では毎月発生する家賃が不要で事業を開始することができます。住居費がかからないことにより家賃分の利益を稼ぐ負担を無くし、低リスクで事業を展開可能です。通常だと、店舗を借りる際には敷金・礼金などの初期費用もかかりますが、店舗兼住宅ではこれらの費用も発生しません。家賃の支払いは、経営が軌道に乗るまで大きな負担になりがちですが、住居費不要の店舗兼住宅であれば精神的にも金銭的にも余裕を持つことができます。
また、確定申告により建築費用の店舗部分に対して減価償却費などの経費計上することで節税対策につなげることができます。節税対策ができることで、費用を抑えて事業展開の拡大をすることが可能です。減価償却費とは、建物の経年劣化によってかかる設備投資などの費用を、一定期間にわたり費用配分する会計処理になります。
経費計上が多いほど納税額が減少するため、減価償却費や店舗部分で計上できる経費を上手く活用することをおすすめします。節税対策によって、事業展開に関する余計なコストをかけずに拡大していくことが可能です。
店舗兼住宅のデメリットとして、騒音問題が挙げられます。店舗の多い周辺環境である場合は、あまり気にする必要はありませんが、住宅街が多い場合は近隣への配慮がないと騒音問題としてトラブルに発展する危険性があります。また、店舗内の騒音だけでなく、違法駐車や事業の発展による顧客の行列なども近隣トラブルになる恐れがあります。
店舗兼住宅を売却する際は、建物の売却に時間がかかるというデメリットもあります。店舗兼住宅は、一般的な一戸建てと比較するとニーズが限定されているため、買主が見つかりづらい傾向にあります。将来、売却を考えている方は、売却を視野に入れて店舗兼住宅の需要が高いエリアで経営をするか、店舗用や住宅用にリフォームするなど検討しましょう。
店舗系住宅は、間取りの難しさという点でもデメリットといえます。多くの場合、一階部分を店舗用として店内スペースの確保から従業員スペース、商品の在庫置き場など必要なスペースがいくつかあります。さらに、店舗だけでなくプライバシーを守るためにも住宅部分についても考慮した間取りも必要です。両方を踏まえた間取りを考えなければならないため、建築やリフォームの際に注意して設計することが大切です。
店舗兼住宅は一般的な住居とは間取りが異なることから、店舗部分や住居部分などを考えた間取りにする必要があります。平屋建てや2階建てなどによっても間取りが違うため、建築する前に後悔がないよう入念な設計をすることが大切です。
ここからは、店舗兼住宅のおすすめな間取りについて紹介していきます。建てた後では変更しにくい部分や、直すために余計なコストもかかってしまうため、以下で紹介する間取りをぜひ参考に計画してみてください。
基本的に1階を店舗用にして2階を住居用とするケースが多いですが、平屋建てでも店舗兼住宅にすることはできます。 店舗部分は、正面に出入り口を設けてお客が入りやすいようにし、奥に商品陳列スペースを設けることが一般的です。また、出入り口部分をスロープ等を設置するなどのバリアフリーにし、車椅子やベビーカーなどのお客が入りやすいよう工夫することもおすすめです。
住居部分では、運営時に店舗内を家族が通らないためにも、店舗部分とは別に専用の出入り口を設けることが望ましいです。住居は、道路側からは見えにくい、奥に設置することで店舗と住居スペースを独立させることができます。
共用スペースについては店舗兼住宅の場合、店舗部分と住居部分を共用するスペースも必要です。例えば、トイレや洗面所、廊下スペースなどが挙げられます。スペースがあるのであれば、トイレなどはお客様用と従業員用と分けることが望ましいです。
2階建ての店舗兼住宅の間取りでは、1階部分と2階部分によって店舗と住居を明確に分けることをおすすめします。1階を店舗用として使用するのが原則であり、2階部分は住居用として整理整頓をし、家族が快適に過ごせるような空間にすることが望ましいです。
2階を住居用とする際には、プライバシーを守るためにも外部からの視線に配慮した間取りにすることが大切です。住居部分と店舗部分をつなぐ階段に関しては、広くて明るく、使いやすいものにすることをおすすめします。
収益を見込むためにもデザイン性などを追求することも大切ですが、全体的な間取りとして、店舗と住居が快適に共存できるようなバランスのとれた間取りにするようにしましょう。
3階建ての店舗兼住宅の間取りでも、1階部分を店舗用にするのが望ましいです。3階建ての店舗兼住宅は、店舗を1階に設置し、2階以上は住居とした間取りが一般的です。さらに収益を得たい場合には、例えば1階をケーキなどのスイーツを販売するスペースとし、2階をカフェフロアに、3階を住居用とすることもできます。
1階部分のみを店舗とする場合の、具体的な間取りについて以下でまとめました。
1階:店舗スペース
住居スペース
寝室スペース
店舗スペースと住居スペースを明確に切り離すことで、家族のプライバシーを確保することができます。プライバシーを守るだけでなく、洗濯物などの家族の生活を表に見せないことで景観を良くすることにもつながります。
店舗スペースが予想よりも狭く感じる場合は、天井を高くするなどの工夫をすることで広々とした空間を演出可能です。最適な間取りが分からないと不安な方は、専門家へ相談してみることも一つの選択肢です。
間取りが具体的にイメージできたとしても、店舗兼住宅における法律上のルールを守る必要があります。法律上のルールは、用途地域などによって建てられる建物が決められていることです。
用途地域とは、環境保全や街の景観を保つために定められている、住居系・工業系・商業系と合わせて全部で13種類ある地域の総称です。そのため、用途地域によって建てられる建物と建てられない建物があるため確認しておく必要があります。
ここでは、用途地域に含まれている第1種と第2種の低層住居専用地域におけるルールについて、以下で解説していきます。
第1種低層住居専用地域とは低層住宅専用の地域であり、都市計画で決められている用途地域の一つです。第1種低層住居専用地域では、主に1〜2階建ての一戸建て住宅が並ぶエリアとなっており、基本的には店舗を建てることはできません。
しかし、いくつかの制限を守る必要はありますが、住宅に付随する店舗であれば建築可能です。制限には、良好な環境保全のために建築物の高さが10mまたは12mであることや、建築物の規制の代表ともいえる「建ぺい率」と「容積率」が用途地域によって数値が設定されています。
建ぺい率とは敷地面積に対する建築面積の割合であり、容積率というのは敷地面積に対する延床面積の割合のことです。どちらも、敷地に対してどれくらいの建築物が建てられるのかを決める数値となります。
また、駐車場の設置が必要であり、家屋の外観にも制限があります。いくつかの制限がありますが、第1種低層住居専用地域で店舗兼住宅を考えている場合には、特に建築物の高さ・建ぺい率・容積率に注目することが大切です。
第2種低層住居専用地域とは、小規模な店舗の立地を認める低層住宅の専用地域のことを指します。第1種低層住居専用地域と同様に建築物の高さ制限があり、建ぺい率と容積率も設定されています。
また、駐車場の設置が義務付けられている場合もあり、外観の色や材質、形状について規定があることを知っておきましょう。第2種低層住居専用地域の建物の用途については、住居以外に使用することができない場合もあるため注意が必要です。
建築物を建てる際には、騒音や振動、排気ガスなどの影響を受ける住居への配慮が求められることがあります。第1種低層住居専用地域と大きく異なるのは、店舗が建築できるかどうかの点です。第2種低層住居専用地域では、150㎡以下、かつ小型店舗や飲食店などの店舗が建築可能です。
規制によって店舗を自由に建てられないと不便に感じてしまいますが、違法建築にならないためにも、これらのルールを守ることは大切です。
店舗兼住宅を住宅ローンで組む方法について具体的に解説していきます。店舗兼住宅を住宅ローンで組む場合、まずは住宅ローンの対象物件に該当するのか確認する必要があります。
結論から述べると、店舗兼住宅に対して住宅ローンを貸し出す金融機関は少ないです。そのため、金融機関によっては融資対象外となることがあります。しかし、一部の金融機関では店舗兼住宅の融資も可能としているところも増えてきています。
また、金融機関によって条件は異なりますが、一般的に以下の条件を満たすことで店舗兼住宅であっても住宅ローンを借りられる可能性があります。
住宅ローンは住宅部分への融資になるため、店舗部分での工事費は自己資金になることを知っておきましょう。ただし、金融機関では住宅ローン以外に事業性資金についても扱っているため、店舗部分の工事費を事業ローンで組める可能性もあります。
店舗兼住宅で融資を考えている方は、融資が受けられる金融機関について事前にリサーチしておくことをおすすめします。
店舗兼住宅を建てる際、注意すべき点があります。主な注意点としては以下の通りです。
注意点の中でも、特に建築基準法や商業活動の制限について、よく調べておく必要があります。前述した通り、制限された内容に従って建物を建てなければ違法建築とみなされ、法に基づいて除却や使用禁止、最悪の場合は告発により罰金などの刑事処分を下されることがあります。
近隣トラブルを避けるためにも、防音対策と周辺環境の配慮も大切です。消防法とは、飲食店などを運営する際に必要な、火災を予防するための法律です。消防法に必要なのは「消火設備」「避難設備」「警報設備」の設置となります。火を扱う店舗であった場合には、この消防法を守らないと命令違反や法令違反とみなされて罰則を受ける可能性があるため気をつけましょう。
店舗兼住宅を建てる前に、資金計画を確認することも大切です。住宅ローンなどを組む場合、店舗運営を開始した後で融資の返済ができないなどのリスクを避けるためにも、余裕を持った返済計画を立てることが重要です。また、資金計画は予算を組むことではなく、調達・支払い・返済の計画ということを理解しておきましょう。
最後に、店舗兼住宅の施工実績が豊富な建築士や設計事務所を選定することも大切です。店舗兼住宅は、住宅部分だけでなく店舗部分も一緒に建築するため、両方を得意とした相手に依頼する必要があります。実績数が多いほど経験が豊富なため、建築実績が多い建築士や設計事務所を選定すると安心して任せることができます。
店舗兼住宅を建てることで、お店の経営と居住スペースの確保を一つの建物で済ませることができます。住居費の軽減などのメリットが得られる一方で、間取りの難しさなどのデメリットもあることを理解しておくことが大切です。
また、店舗兼住宅を建てる際には、建築法上のルールに従って建てることが重要であり、建てたいと考えているエリアの用途地域を事前にリサーチしておくようにしてください。
店舗兼住宅は、店舗部分と住宅部分の両方を考慮した間取りを設計する必要があるため、施工実績が豊富な建築士や設計事務所を選定することが大切です。店舗兼住宅を検討する中で少しでも不安や疑問があるという方は、一度MLINEにご相談ください。
M-LINEでは、ご相談内容に応じて、専門的な知識を持ったプロの視点からご提案・サポートを実施しております。店舗兼住宅に関して不安な方は、資料請求もしくはお問い合わせページへお気軽にご相談ください。
2024/09/30
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