小林 眞一郎 ou2株式会社 常務取締役 二級FP技能士
店舗兼住宅とは、店舗と自宅部分を兼ね備えた物件です。飲食店や美容院など「自分のお店を自宅に作りたい」と考えている方も多いでしょう。
しかし、店舗兼住宅は自宅部分と店舗部分が合わさった形となるため、どのように経費計上するのかイメージできない方も多いのではないでしょうか。
店舗兼住宅の経費は、基本的には事業の運営にかかる費用は経費計上できます。しかし、ローン返済額の元本部分は経費計上できないなどのルールもあるため、事前に経費計上できる経費について把握しておくことが大切です。
この記事では、店舗兼住宅で経費にできる内容や金額、店舗兼住宅の固定資産税の計算方法などを解説します。「店舗兼住宅の住宅ローンは経費になる?」などの店舗兼住宅の経費に関わるよくある質問も分かりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
店舗兼住宅は、ローン返済額の利息や水道光熱費などを事業の経費として計上できます。店舗兼住宅の経費にできる内容は、主に以下の9種類が挙げられます。
上記の費用を事業所得から控除できれば、住民税や所得税の負担を減らすことが可能です。店舗部分の経費計上できる費用についてチェックし、賢く税金を節税しましょう。
店舗兼住宅では、店舗部分のローン返済額の利息が経費として計上できます。経費として計上できる金額は、年間の利息を店舗部分の床面積で按分した金額です。
住宅ローンは、元本部分は経費にできないルールがあります。なぜなら住宅ローンを組んだ時点で費用の発生が確定するため、元本部分の返済額を費用として扱わないためです。
住宅ローンの利息は、元利均等返済と元金均等返済の2種類あります。それぞれ利息の割合や返済期間などが違うため、事前にどちらが良いかを調べておきましょう。
また、利息の金額は金利や借入額によって異なります。少しでも税金の支払いを抑えるためには、年間どのくらいの利息の支払いがあるのかをまとめておくことが重要です。
店舗兼住宅を取得した際、維持費として土地・建物の固定資産税や償却資産税が毎年かかります。これらの税金は、事業で使う店舗部分にかかる税金のみを事業の経費として計上が可能です。
経費として計上できる金額は、店舗部分の面積で按分した金額です。店舗兼住宅の取得や維持などに必要な税金は、以下の例が挙げられます。
また、店舗部分と自宅部分の建物の構造などによって、評価額が明らかに違う場合は、それぞれの取得価格を算定することもできます。
償却資産税とは、法人や個人事業主が事業用に所有している償却資産にかかる税金です。具体的には、事業で利用する機器・備品・器具などにかかります。
ただし、償却資産が150万未満の場合は免税となり、税金が課せられることはありません。店舗兼住宅の取得・維持には、さまざまな税金を支払う義務があるため、店舗分に関して控除が受けられるように準備しておきましょう。
店舗兼住宅は、火災保険料・地震保険料・施設賠償責任保険などの保険料も経費としても計上できます。ただし、こちらも店舗部分の床面積で按分した金額を計上する形となるので注意が必要です。
また、飲食店を経営する場合は、火災保険料が割高となる可能性があります。その際は、床面積で按分するのではなく、事情を考慮した金額を計上する形となります。
地震保険料や火災保険料の契約年数は、数年契約(10年間など)である場合が多いです。複数年契約の場合は、1年分の保険料のみを費用として計上する形となるため注意が必要です。
店舗兼住宅は、店舗を運営する上でかかる管理料や修繕費も経費計上が可能です。店舗兼住宅全体にかかる費用の場合は、店舗部分の面積で按分した金額となります。
例えば、店舗兼住宅にかかる管理料や修繕費は、以下のような費用が挙げられます。
店舗兼住宅の建物全体にかかる修繕費は、店舗部分の面積で按分した金額となるため注意しましょう。
店舗兼住宅は、事業の広告費も経費計上が可能です。広告費においては、すべて事業用の費用になるため、全額経費計上ができます。
広告費として計上できる経費は、以下のような広告費用が挙げられます。
広告費には、さまざまな種類があり、費用の金額もそれぞれ違います。広告費を上手く活用すれば事業をアピールでき、集客にも繋がるため、ぜひ活用しましょう。
店舗兼住宅では、事業の接待交際費・交通費も経費計上が可能です。事業を営む上では、取引先や仕入れ先にご挨拶としてお中元を送ったり、食事などをしたりするケースがあります。
これらの費用は、事業を行う上で必要な交際費であるため、接待交際費として経費計上できます。事業と関係ない家族や友人との食事代は、接待交際費とならないため計上しないようにしましょう。
交通費は、業務のための移動(タクシー代・ガソリン代)などにかかる費用です。遠方に出張した際や、取引先の方のタクシー代など、業務に必要な交通費を旅費交通費として経費計上することができます。
旅費交通費として経費計上できるのは、以下の例が挙げられます。
旅費交通費も事業に必要な費用だけ経費計上が可能なため、プライベートで使用したものに関しては計上できません。レシートや領収書などは大切に保管し、事業用で利用したと分かるようにしておきましょう。
店舗兼住宅の店舗分の水道光熱費・通信料も、経費として計上できます。店舗用と自宅用で請求が別々の場合は、店舗分のみを経費計上しましょう。
自宅部分と店舗部分の費用が一緒に請求されている場合は、店舗部分の床面積で按分した金額を計上します。また、家族数・従業員数・電気の使用時間・コンセント数など、事業内容や状況によって割合が変動する場合もあります。
上記のように、水道光熱費や通信料の使用量の割合が実際と異なる場合は、税理士などに相談してみると良いでしょう。
店舗兼住宅では、消耗品の購入費も経費計上が可能です。消耗品とは、よく利用するもので消費サイクルが早いものを指します。
具体的には、使用期間が1年未満で、10万円未満で購入できるものが消耗品として扱われます。店舗兼住宅で計上できる消耗品費の例は、以下の通りです。
また、ボールペンやノートなど事務関係の備品などは「事務用品費」として計上します。同じ消耗品のカテゴリーになりますが、事務用品は購入する頻度も多いため、より具体的に把握するための勘定科目です。
店舗兼住宅を取得した際、住宅ローンの元金は経費にならないですが、建物の減価償却費を経費にすることが可能です。減価償却費とは、耐用年数に応じて分割し、少しずつ経費計上できる費用のことです。
店舗兼住宅では、減価償却費も店舗部分の床面積で按分します。また、店舗と自宅部分の構造が明らかに異なり、建築価格が適正でない場合は、それぞれの取得価格を算定することも可能です。
例えば、取得原価が1,500万円(店舗部分)、20年の耐用年数だった場合は、1年に75万円ずつ減価償却費として計上できることになります。店舗兼住宅の減価償却費は、大きな節税効果があるため必ず計上しましょう。
以下の構造別の耐用年数を参考に、店舗兼住宅の減価償却費がどのくらい計上できるのか計算してみましょう。
構造または用途 | 耐用年数 |
---|---|
鉄骨鉄筋コンクリート造または鉄筋コンクリート造 | 47年 |
木造 | 22年 |
重量鉄骨造 | 34年 |
木骨モルタル造 | 20年 |
店舗兼住宅の経費である固定資産税の計算方法は、店舗部分と自宅部分の割合によって算出方法が変わるため注意が必要です。なぜなら自宅部分の床面積の割合によって、さまざまな軽減制度を受けることができるためです。
固定資産税の一般的な計算方法については、以下の計算式となります。
固定資産税額の対象 | 計算方法 |
---|---|
家屋・土地 | 課税台帳に登録されている価格(固定資産税評価額)×税率(※標準税率1.4%) |
また、新築住宅の固定資産税の軽減措置を受けられれば、上記の固定資産税額より、さらに固定資産税の負担を軽減できます。しかし、自宅部分の床面積が全体の2分の1以上であることが、新築住宅としてみなされる条件となります。
そのため、自宅部分の床面積が全体の2分の1以下である場合は、新築住宅の軽減措置が受けられないため注意が必要です。
また、土地活用には資金繰りや税金対策などの専門的な部分も必要です。資金繰りや税金対策などは、素人の知識だけでは難しい点が多いため、経営の知識がない方や経営のノウハウに不安がある方は専門家に相談するようにしましょう。
次に、店舗兼住宅の土地の固定資産税についてです。土地の固定資産税も、自宅部分の床面積と土地との割合によって軽減措置が受けられる可能性があります。
固定資産税を減額できる制度としては、小規模住宅用地・一般住宅用地の軽減措置制度があります。自宅部分の割合が土地の面積の2分の1以上あれば、すべて住宅用地の対象となり、200㎡までの部分の固定資産税評価額が6分の1に減額することが可能です。
小規模用地・一般住宅用地の特例の軽減率については、以下の通りです。
区分 | 対象 | 固定資産税 |
---|---|---|
小規模住宅用地 | 住宅用地で住宅1戸につき200㎡までの部分 | 固定資産税評価額×6分の1 |
一般住宅用地 | 小規模住宅用地以外の住宅用地 | 固定資産税評価額×3分の1 |
上記の計算方法を元に、軽減措置などの制度が利用できるかをチェックして、店舗兼住宅の固定資産税を計算してみましょう。ただし、知識がないと適用条件に当てはまるのかなどの判断が難しいため、ハウスメーカーや工務店などの専門家に確認してみることをおすすめします。
店舗兼住宅を建てる前に、何が経費計上できるのかを把握しておくことは非常に大切です。なぜなら経費をある程度把握すると、具体的な資金計画を立てることができるからです。
ここからは、店舗兼住宅の経費についてよくある質問に3つの質問について解説します。
店舗兼住宅を検討する際は、何が経費に計上できるのかできないのか、しっかりと把握しておきましょう。
店舗兼住宅の固定資産税は、店舗部分にかかる税金のみ経費として計上できます。なぜなら自宅部分は事業に関係ない費用のため、経費として計上できないからです。
また、店舗部分の固定資産税は、一般的な住宅と比較すると割高になるケースがあります。理由としては、新築住宅などの軽減措置制度を受けるためには条件があり、店舗兼住宅はそれに当てはまらない可能性があるためです。
一般の住宅と同じような固定資産税の軽減措置を受ける場合には、居住部分の空間を2分の1以上にするなどの条件に合わせる必要があります。
上記については、前述の「店舗兼住宅の経費である固定資産税の計算方法」で解説しています。店舗兼住宅を建てる際は、ハウスメーカーや工務店に固定資産税の軽減措置を受けたいと話しておくと良いでしょう。
店舗兼住宅でかかる家賃は、経費計上できません。なぜならマイホームとして契約した店舗兼住宅の建物の取得にかかる費用は、減価償却費として経費計上を行うためです。
また、土地に関しては経年劣化などで価値が減るものではないため、原価償却費はできません。土地は、土地代にかかった費用は経費とはならず、資産として処理されます。
取得した建物に関しては、耐用年数に応じて1年ごとに分割し、建物の取得にかかった費用を少しずつ経費計上できます。そのため、毎月支払う家賃を計上することはできませんが、減価償却の計上によって大きな節税効果が得られるでしょう。
ただし、店舗兼住宅の物件を賃貸契約する場合は、家賃の経費計上が可能です。その場合は、家賃を店舗部分の床面積で按分した金額を経費計上できます。
店舗兼住宅の住宅ローンは、返済金の元本部分は経費となりません。理由としては、住宅ローンを組んだ時点で費用の発生が確定するため、返済額を費用として扱わないためです。
しかし、店舗兼住宅の住宅ローンの利息は、経費として計上することができます。なぜなら住宅ローンの利息は、返済する度に発生する費用だからです。
店舗兼住宅の住宅ローンの利息を経費計上する場合は、店舗部分の床面積で按分した金額を経費として計上します。
また、一定の条件を満たせば、店舗兼住宅でもローン控除を受けられる可能性があります。なぜなら自宅部分の床面積が50%以上の場合は、住宅としてみなされるため、自宅部分のみ住宅ローン控除を利用することができるからです。
住宅ローン控除とは、年末時点での住宅ローンの残高が入居時から最長13年間控除される制度です。所得税や住民税の負担を軽減することがため、ぜひ条件についても確認しておきましょう。
今回は、店舗兼住宅の経費にできる内容や、経費である固定資産税の計算方法などについて解説しました。店舗兼住宅は、事業のための費用を経費計上することが可能です。
店舗兼住宅は、固定資産税・保険料・減価償却費などの費用を事業所得から控除できるため、大きな節税効果となります。ただし、経費として計上できるのは、店舗部分に関わる費用だけなのでしっかりと計上の仕方について理解しておく必要があるので注意しましょう。
M-LINEでは、店舗兼住宅の設計などについても豊富な経験と実績があり、経費に関してのご相談も承っております。「店舗兼住宅の経費計上の仕方が分からない」「実際どのくらい控除できるのか知りたい」など、不明点がある方はぜひ一度ご相談ください。
2024/09/30
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