小林 眞一郎 ou2株式会社 常務取締役 二級FP技能士
重量鉄骨造は、高い耐久性と、大空間もつくりやすい間取りの自由度の高さが魅力です。今回は、重量鉄骨の家のメリットと、軽量鉄骨などの他の構造と比較したデメリットや、建築時に注意すべきポイントについて解説します。
重量鉄骨造の坪単価や耐震性能・寿命、雨漏りへの対策などを紹介しますので、重量鉄骨の住宅やアパート・マンション・賃貸併用住宅などの建築を検討中の方は参考にしてください。
重量鉄骨造とは、幅6mm以上の骨格材(部材を作るための鋼材)でできた構造材を使った鉄骨造の建物のことです。
骨格材が幅6mm未満の構造材で作る鉄骨造は「軽量鉄骨造」と呼びます。
骨格材の厚みは、強度やコスト(建築費用・固定資産税など)、法定耐用年数などに関係してきます。重量鉄骨はより強度が高くなるため3階建て以上の建物、軽量鉄骨は2階建てまでの建物に向いているなどです。重量鉄骨・軽量鉄骨にはそれぞれにメリット・デメリットがあります。
次に、重量鉄骨造と軽量鉄骨造を比較した、重量鉄骨のメリットについて解説します。
重量鉄骨造の家を建てるメリットは以下の5つです。
重量鉄骨は軽量鉄骨よりも強度が高く、中高層の建物に向いています。重量鉄骨の中でも骨格材の厚みによって強度が異なり、より厚みのあるH形鋼などを使用することで、地震や強風にも耐えられる高い剛性を持ちます。
また、重量鉄骨は変形しにくく、長期間にわたって構造の安定性を維持できるのが特徴です。そのため、大型の建物など耐久性を求められる施設で採用されることが多く、軽量鉄骨では実現しにくい高い耐荷重性能を確保できます。
軽量鉄骨造に比べて骨格材が厚いので、柱などの部材も太くしっかりした骨組みになります。骨組みの強さが地震力に耐える力の強さにもつながり、耐震性も重量鉄骨の方が高くなり、繰り返しの揺れにも強くなります。軽量鉄骨よりも重量鉄骨の方が、より高さのある建物に用いられるのも、重量鉄骨の耐震性・耐久性の高さが大きな理由です。
さらに重量鉄骨造は、建物全体の重量があるため揺れにくく、安定した構造を維持しやすいのも特徴です。接合部に強固な溶接やボルトを使用することで、地震時の衝撃を効果的に分散させます。そのため、大規模な建築物にも適しており、長期的な耐震性能を確保できる点が大きなメリットです。
耐震性に優れた家を建てたい方はRC造の住宅もおすすめです。以下の記事ではともに地震に強い重量鉄骨造とRC造の耐震性の違いについて解説しているので、ぜひお読みください。
重量鉄骨の方が柱・梁が太いので壁・床・天井も厚くなるため防音性が高くなります。
防音性が高い方が生活をする上で何かと便利ですし、近隣の騒音対策にもなるでしょう。
重量鉄骨造の家は、軽量鉄骨造の家と比較して耐火性能が高く、火災保険の費用を抑えられるというメリットがあります。
その理由の一つは、重量鉄骨の厚みと強度の違いです。重量鉄骨は軽量鉄骨よりも柱や梁の素材が厚く、熱による変形や崩壊が起こりにくいため、火災時の耐久性が高くなります。一方、軽量鉄骨造は構造材が細く薄いため、火災の熱で変形しやすく、建物全体の耐火性能が低くなりがちです。
また、重量鉄骨造は耐火被覆材を使用することで、さらに耐火性を高められるのも特徴です。こうした理由から、重量鉄骨造の建物は火災リスクが低いと評価され、火災保険の保険料が軽減される可能性が高くなります。
耐火構造について詳しく知りたい人は、以下の(一社)日本木造住宅産業協会の記事を参考にしてください。設計マニュアルも公開されています。
重量鉄骨の家は、ラーメン構造と呼ばれる、柱と梁を一体化し、筋交いを使わずに構造を作る工法が用いられます。軽量鉄骨よりも柱や梁が太く強いので、少ない本数で建築でき、間取りの自由度が高く広い空間を作りやすいメリットがあります。
軽量鉄骨造は素材の強度が低いため、大きな空間をつくる際には補強が必要となり、間取りの制約が生じるのがいおお案的です。特に、2階以上の家では柱や壁の配置が制限されることが多く、開放感のある設計が難しくなります。
そのため、自由な間取りや広いリビング、開放的なデザインの家を求める場合は、重量鉄骨造を選択するようにしてください。
ここでは、重量鉄骨の家を建てる6つのデメリットと対策方法について解説していきます。
重量鉄骨造は、木造と比較すると坪単価が高く、建築コストが上がってしまうのがデメリットです。重量鉄骨造と、その他の構造との坪単価の比較データを紹介しますので参考にしてください。
重量鉄骨の家の坪単価
まず、重量鉄骨と軽量鉄骨を合わせた鉄骨造全体の坪単価を見てみましょう。国土交通省の「住宅着工統計(令和3年分)」によると、令和3年度に建てられた住宅の構造別㎡単価・坪単価(工事予定額)は次のようになっています。
2021年度住宅着工統計の構造別工事予定額(㎡単価・坪単価)
<全国>
<東京都>
※坪単価に換算する際百の位以下は切捨てて計算
データを見ると、東京都で鉄骨住宅を建てる場合、坪単価は約105万と全国平均よりも高い坪単価となっていますが、RC造やSRC造と比較すると安く建てられる傾向があります。
また、東京都で令和3年度に建てられた鉄骨造住宅のうち、一戸建てと共同住宅(アパート・マンション)では、一戸建ての方が坪単価が高かったことが分かりました。
東京都の鉄骨造住宅の建て方別工事予定額(㎡単価・坪単価)
※坪単価に換算する際百の位以下は切捨てて計算
出典:国土交通省「建築着工統計調査報告(令和3年度計分)」
重量鉄骨の家の建築コストを安くするには、設計や資材選びを工夫することが重要です。まず、シンプルな間取りにすることで、鉄骨の使用量を抑え、施工費を削減できます。
また、規格サイズの鉄骨材を使用することで、特注品を避けてコストダウンが可能です。さらに、スケルトン・インフィル設計を採用すると、改修コストも抑えられます。
住宅着工統計では、重量鉄骨/軽量鉄骨ごとの㎡単価は公表されていません。そこで、重量鉄骨・軽量鉄骨(鉄骨系プレハブ)の家を扱う大手ハウスメーカーの参考坪単価を調べて平均を出してみました。
重量鉄骨の家を扱う大手ハウスメーカーの参考坪単価の平均…70万円~160万円/坪
軽量鉄骨(鉄骨系プレハブ)の家を扱う大手ハウスメーカーの参考坪単価の平均…65万円~132万円/坪
(参照)住宅情報ポータルsuumoより弊社独自に調査して作成
調査の結果、重量鉄骨を扱うハウスメーカーは限られており、平均坪単価も高めになっていることが分かりました。
重量鉄骨造の家の坪単価について詳しく知りたい人は、木造・RC造と比較した以下の記事を参考にしてください。
重量鉄骨造の場合、軽量鉄骨と比べて材料費が高くなり、部材が大きく施工コストも上がるため、坪単価も高くなります。
この他にも、軽量鉄骨よりも建物の重量が増すためより強固な地盤が必要で、場合によっては地盤補強工事など大掛かりな工事が必要なケースがあります。地盤改良工事は、建物本体の建築費用とは別に、数百万円以上の費用がかかることもあるため、事前に地盤が重量鉄骨に適しているか、しっかり確認しておくのがポイントです。
重量鉄骨のような鉄骨造の家は、木造にはない雨漏りの原因となる部分があります。
また、木造と比べて鉄骨造は侵入した雨水が柱を流れて横に伝わっていくため、発生場所から離れた場所で雨漏りすることも多く、雨水の入口が見つけにくく対処の難易度も高いのがデメリットです。そのため、鉄骨造の家の雨漏りは事前に対策を考えておくことが重要です。
対策方法としては、以下のようなものを行います。
まず、重量鉄骨の家で雨漏りが起きる原因として、ALCパネルの目地やクラック(ひび割れ)、陸屋根の排水不良が挙げられます。ALCパネルは継ぎ目が多く、コーキング材が劣化すると雨水が侵入しやすいため、5~10年ごとの打ち換えが必要です。
また、ALCパネル自体も水を吸いやすく、防水・透湿性の高い塗料を塗ることで劣化を防ぎましょう。さらに、陸屋根は勾配がなく排水能力が低いため、適切な防水処理と定期的な点検が重要です。施工時には、屋上や陸屋根の建築実績が豊富なハウスメーカーや工務店を選ぶようにしましょう。
鉄骨造は、RC造ほど高熱に強くないというデメリットがあります。鉄骨の材料である炭素鋼の加熱されたときの強さは、約100℃まではあまり変化がなく、200~300℃で最大に。しかし、500℃になると軟化して、常温の1/2の強さ、600℃で常温の約1/3、100℃では強さは0と、一定以上の高温になると非常に脆くなってしまうというデメリットがあります。
そのため、鉄骨造の住宅やマンションはそのままでは火災に遭うと大きな被害を生じる可能性があります。そのため、「耐火被覆」と呼ばれる、柱や梁などの骨組み部分をロックウールなど耐火性のある材料で覆う処理が不可欠になります。
鉄骨住宅は、骨格材の厚みによって3種類(34年・27年・19年)の法定耐用年数があり、薄いほど法定耐用年数が短くなります。重量鉄骨は法定耐用年数が34年と、鉄骨造の中で最も長くなります。
一般的に、重量鉄骨造よりも償却期間が短い軽量鉄骨造の方が、アパートなどの不動産経営では当初の所得税額を抑えられ、当面の資金繰りに余裕が生まれやすいと言えるため、節税効果という点では、重量鉄骨は軽量鉄骨よりも振りかもしれません。
ただし、償却期間が終われば収入にそのまま税金がかかってくるので、経営期間が長くなればなるほど、償却期間が短いほうが必ずしも良いとは言えません。
また、経営年数が長くなっても毎年同じように収益を上げるためには、建物のメンテナンスや需要に合わせたアップデートなどの経営努力も欠かせません。
そのため、「節税効果が高いから」という理由だけで建物の構造を選択するのはあまりおすすめしません。一人ひとりの予算や経営の方針・スタイルなどを考慮して総合的に決めることが大切です。
先程も少し触れましたが、鉄骨造住宅の法定耐用年数(法人の所得税の税額計算のための減価償却で用いられる数字)は、
①骨格材の肉厚が3mm以下…19年
②骨格材の肉厚が3mm超4mm以下…27年
③骨格材の肉厚が4mm超…34年
このように定められています。幅6mm以上の骨格材を使うので、③の34年くらいが重量鉄骨の家の寿命?と考えるかもしれませんが、実際には
鉄骨造住宅の寿命…59.29年
鉄骨造アパートの寿命…55.07年
(出典)鑑定おおさかNo.46「建物の寿命と耐用年数」早稲田大学 小松幸夫
という調査結果もあり、適切にメンテナンスを行っていれば、50~60年、またはそれ以上に長寿命化することも可能と言えます。
重量鉄骨の家は以下のような人におすすめできます。
重量鉄骨造は、太くて厚みのある鉄骨を使用するため、地震の揺れに強く、繰り返しの地震にも耐えられる構造になっています。耐震性を重視する人には最適な選択肢の一つ。
また、重量鉄骨造は、柱や壁の制約が少なく、大開口のリビングや吹き抜け空間を実現しやすいのが特徴です。開放感のあるデザインや、ビルトインガレージのある住宅を検討している人におすすめです。
鉄骨は不燃性の素材であり、重量鉄骨造は特に耐火性能が高く、火災時の安全性が高いのが魅力。また、遮音性も優れており、騒音を気にせず静かに暮らしたい人にも適しています。
重量鉄骨は軽量鉄骨や木造に比べて耐久性が高く、劣化しにくいため、長く住み続けることを考えている人におすすめです。しっかりとした設計・施工を行えば、資産価値の維持も期待できるでしょう。
重量鉄骨の家は、ビルトインガレージや吹き抜けなど、縦にも横にも柱の少ない大空間を作るのに適した構造です。自由な間取りが実現でき、耐久性・耐震性にも優れ、3階建て以上の住宅を建てるのにも適しているので、狭小地や変形地の多い都内での家づくりにも適しています。
ただし、木造よりも坪単価が上がりやすい点、雨漏り対策や耐火性の確保などについては、各ハウスメーカーや工務店に事前にしっかり確認しなければならない点には注意しましょう。
M-LINEは、都内で鉄骨造(重量鉄骨)・RC造の豊富な建築実績があり、快適で収益性を考えた構造・デザイン・間取りの住宅・賃貸住宅・賃貸併用住宅の建築をサポートします。
また、都内の各エリアの特徴や土地の特徴を踏まえた、最適な構造や設計をご提案。木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造など構造を選ばず、自分の希望に合わせた建物が実現できます。
さらに、土地活用をご希望の方に向けた収支シミュレーションや建築後のフォロー体制も万全で、東京で安心してアパート・マンション経営を始められます。
「賃貸経営で土地活用したいけど入居者が集まるか心配」「建築費と利回りのバランスが分からない」などの場合も、それぞれのご希望に沿ったご提案が可能です。
都内で鉄骨造住宅・賃貸住宅・賃貸併用住宅・ソーシャルアパートメントなどの土地活用をお考えの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
2025/03/31
2025/03/31
2025/03/31