小林 眞一郎 ou2株式会社 常務取締役 二級FP技能士
土地活用の選択肢にテナントビルの経営があります。テナントビルとは、事務所や店舗向けに建てられたビルのことです。貸しビルとも呼び、賃料は立地や面積などによって大きく異なります。
そこで本記事では、テナントビルを経営するメリットとデメリットについて詳しく解説します。経営の始め方や注意点なども解説しているので、土地活用としてテナントビルの経営を検討している方はぜひ参考にしてください。
テナントビル経営とは、事務所や店舗向けにフロアを貸し出し、家賃収入を得る不動産経営の1つです。テナントとは、ビルのフロアを借りる事務所や店舗を指します。不動産業界では、店子(たなこ)と呼ばれる場合も多いです。
テナントビルの経営を始めるにあたって、特別な資格は必要ありません。自身でビル管理を行う場合は、ビル管理士などの資格が必要になるケースもありますが、ビル管理は不動産会社に依頼するのが一般的です。
なお、テナントビル経営は「オフィスビル経営」「メディカルビル経営」「商業用ビル経営」など、テナントの種類によって分けることができます。
オフィスビル経営 | 企業の事務所やオフィスをテナントとするビルです。低層階にはオフィスで働く人たちのために、飲食店やコンビニなどの店舗が入る場合があります。 |
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メディカルビル経営 | 医療機関をテナントとするビルです。地域住民への貢献度が高く、他のテナントビルよりも比較的長く入居してもらえます。 |
商業用ビル経営 | 飲食店や雑貨店、衣料品店などの店舗をテナントとするビルです。立地条件が良ければテナントの売上が維持され、長期入居につながります。 |
複合型ビル経営 | 低層階に商業施設などが入り、上層階はマンションとなっているビルです。大規模なビルの場合は、複合型になるケースも多くあります。 |
テナントビルを経営するメリットとして、以下3つが挙げられます。
テナントビルは居住用ではないことが大きな特徴です。賃貸アパートやマンションよりも自由度が高いうえ、企業に貸し出すため高収益が期待できます。
賃貸住宅の場合、建築できる土地の形状や建物の形状が法律で定められています。しかし、テナントビルの場合、居住用ではないためアパートやマンションと比較して基準が緩いです。建築基準法や都市計画法などの制限が発生しづらく、比較的自由に建物を建築できます。
また、日当たりが悪い場所でも、テナントビルであれば問題なく建築できるケースも多いです。そのため、賃貸住宅に向いていない土地の場合は、テナントビルの経営も選択肢に入れることもおすすめします。
テナントビルは企業に貸し出すため、個人を対象としている賃貸住宅よりも高収益が見込めます。また、企業は気軽に引越しできないので、一度入居者が決まれば収入も安定しやすいです。
長期にわたって高い賃料を支払ってくれる可能性が高く、高回りが期待できます。
ただし、駅から近いことや利便性が高いなど、人が集まりやすい場所でない場合は、収益を得続けるのが難しい可能性もあります。
テナントビルは、相続性評価の際に貸家建付地とみなされるため、相続税の節税につながる可能性があります。ただし、自身の住居用ではないので、固定資産税の住居用地の特例は受けられません。高い収益性を維持しながら、将来の相続税対策を行いたい場合に有効な方法です。
テナントビルを経営するデメリットとして、以下の3つが挙げられます。
不動産経営をする際に、避けられないのが空室リスクです。テナントビルは賃貸住宅よりも賃料が高い分、空室になると家賃収入が大幅に減少します。テナントビルの経営はメリットだけでなくデメリットもあるため、両方を把握したうえで検討することが大切です。
テナントビルは入居者が企業であるため、賃貸住宅よりも賃料を高く設定できます。しかし、一度退去が発生すると、家賃収入も大幅に減少します。また、テナントビルは賃貸住宅の入居者を募集するよりも難しく、長期にわたって見つからないケースも珍しくありません。
テナントビルは企業が入居するため、景気の影響を受けやすいです。景気の悪化によって、テナントが立て続けに撤退してしまうリスクもあります。さらに、賃料の値下げが求められたり、賃料の支払いが遅れたりするケースも考えられます。
また、コロナ禍においてリモートワークが普及し、オフィスを持たない企業が増えてきました。テナントビルは、このような社会的な変化にも影響されやすいと言えます。
常に新しいビルが建築されているので、新築のビルに負けない設備を備えるなど、差別化が必要になります。しかし、新しい設備をつけるには多額の費用が発生します。テナントビルに求められる設備の一例は、以下の通りです。
電気設備(受変電設備・非常用電源など) | 受変電設備と非常用電源は必須となります。地階または屋上にある場合がほとんどです。また、テナント全てに対応できる電気容量が必要になります。 |
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空調設備 | テナントビルの場合、ビル側で空調を調整することも可能です。 |
換気設備 | 建築基準法により、居室ごとに床面積の1/20以上の換気に有効な窓が必要とされていますが、窓を確保できない場合は換気設備が必要です。多くのテナントビルは窓の確保が難しいため、換気設備を設置しています。 |
給水設備 | 給水設備には、貯水槽を設置しない「直結給水方式」と貯水槽を設置する「貯水槽水道方式」があります。直結給水方式の場合は貯水槽のスペースや点検作業が不要になりますが、災害時に給水ができません。一方で、貯水槽水道方式だと災害時でも給水できますが、点検と清掃にコストが発生します。 |
水回り設備(キッチン・洗面室・トイレなど) | 定期メンテナンスに加えて、不具合の度に修繕が必要です。水回りのトラブルは放置しておくと、ビル全体に広まる可能性があります。上下水道設備の耐用年数前に配管取り換え工事などが必要になるため、ビルを相続したまたは中古ビルを購入した場合は確認しておくことをおすすめします。 |
防犯設備 | テナントビルの安全を守るために、防犯カメラの設置や警備員の巡回が必要です。不特定多数の人が自由に出入りできる商業ビルは、特に犯罪が起きやすい傾向にあります。 |
駐車場 | 中規模以上のビルの場合は、駐車場が完備されている方が望ましいです。ビル内にない場合は、近隣にコインパーキングがあるか確認しておく必要があります。 |
搬入口 | 中規模以上のビルの場合、エントランスとは別に資材や荷物などを搬入する入り口が必要になるケースも多いです。 |
エレベーター | 建築基準法により、6〜7階以上ある建物にはエレベーターの設置が義務付けられています。しかし、低層ビルでも設置した方が、入居者は見つかりやすいです。 |
テナントビルは資金力を持っている大手企業も競合となるため、差別化を図るのが難しいです。ライバルに勝てるように、その立地のニーズと募集するテナントの種類を建築計画の段階で明確にしておく必要があります。
テナントビルの経営がおすすめな人の特徴として、以下の2つが挙げられます。
テナントビルの経営は、誰にでもおすすめできる訳ではありません。特徴にあてはまらない場合は、より検討することが重要です。
テナントビルの経営をするにあたって、立地条件は非常に重要です。人通りが多かったり、大通りに面していたりする土地であれば、テナントが入りやすい傾向にあります。オフィスビルであれば多くの企業が集まる主要都市、飲食店やアパレルショップなどの店舗が入る商業ビルであれば駅の近くが最適です。
ビルの用途によって適した場所は異なりますが、いずれにしても人通りが多く、人の目につきやすい場所はテナントビルの経営に有利です。ただし、例外として、クリニックが集まるメディカルビルや塾や保育所など教育系のテナントが入るビルの場合は、人通りが少ないエリアでも成功しやすい傾向にあります。
テナントビルは貸家建付地となるため、相続税評価において評価額が更地の8割程度になります。貸家建付地とは、アパートやマンションなど、他人に貸している建物が建っている土地のことです。土地を将来的に相続する場合、テナントビルを経営する方法も有効的です。ただし、必ずしも貸家建付地で相続した方が良いとは言い切れません。
貸家建付地で相続税対策すべきか判断するには、2つのポイントをチェックする必要があります。1つ目のポイントは、相続税を納める必要があることです。財産の総額が基礎控除額を超えないと、相続税の納税義務はありません。
資産が約3,000万円に満たない場合は、相続税の支払いは不要です。なお、相続税の基礎控除額は「3,000万円+(法定相続人の数×600万円)」で算出できます。
2つ目のポイントは、不動産の相続が家族の負担にならないことです。不動産の相続が家族の負担になる場合は、貸家建付地を活用した相続税対策は避けた方が無難です。家族の負担になるかどうかは、遺産分割に争いが起きないか、相続後に不動産経営を行えるかどうかで判断できます。
テナントビル経営の始め方として、以下の2パターンが挙げられます。
ビルと土地を持っているかどうかで、経営の始め方は異なります。スムーズに経営を始めるためにも、あらかじめ手順を把握しておくことが大切です。
ビルも土地も持っていない状態でテナントビルの経営を始める場合は、以下の手順に沿って進めていきます。
ビルも土地も持っていない場合は、既に市場で流通している投資物件を一棟で購入します。購入する際は、そのビルの流通性や経営状態などを総合的に判断することが重要です。テナントの入居率が良くなかったり、築年数がかなり経っていたりなど、経営状況や物件自体の価値に問題がある場合は、金融機関の審査が厳しくなる傾向があります。
また、土地と中古の建物を購入するため、既にある土地に建物を建築するよりも高額になり、利回りが悪くなってしまう可能性が高いです。
手持ちの土地でテナントビルの経営を始める場合は、以下の手順に沿って進めていきます。
土地だけを持っている場合は、立地状況とその地域のニーズをしっかり調査する必要があります。テナントビルの経営に向いていないときは、他の方法で土地活用をした方が無難です。ニーズに沿った建物を建築することで、安定した不動産経営が可能となります。
なお、建築プランを決める際は、1社ではなく複数社のプランを比較することが重要です。同じ構造の建物を建築する場合でも、会社によって費用が大きく異なることがあります。そのほか、実績や口コミ、担当者の対応なども確認し、信頼できる会社かどうか判断しましょう。
ビルを相続した場合は、既存のビルを利用するためより経営のハードルは低いです。相続後、すぐに経営を始めることができます。経営状況がひどかったり、建て替えが必要か判断できなかったりする場合は、的確なアドバイスを受けられる専門の業者へ相談することをおすすめします。
テナントビルを経営する際の注意点として、以下の2つが挙げられます。
テナントビルの経営は人通りが少ない場所よりも、多い場所の方が成功しやすいです。立地は成功を左右する重要なポイントなので、しっかり検討したうえで選ぶ必要があります。
テナントはビジネス目的に入居するため、立地条件が重要になります。人通りが多かったり、大通りに面していたりするビルを選ぶと、経営は成功しやすいです。初期費用を抑えられるからといって、人通りの少ない土地でテナントビルを経営するのはおすすめできません。
特に商業ビルやメディカルビルは、人が集まる場所でなければ経営が厳しくなってしまいます。テナントの経営が悪化すると、退去につながる可能性が高いです。そのため、周辺環境も事前に確認しておく必要があります。
人通りが多いか、大通りに面しているかに加えて、駐車場があるかどうかも確認しておくと良いでしょう。特に中規模以上のビルは車での移動や来訪者のために、駐車場の需要が高くなる傾向があります。ビル内にない場合は、近くにコインパーキングがあるかどうか確認しましょう。
テナントビルの経営を成功させるためには、ビル経営に得意な管理会社を選ぶことも大切です。信頼度の高い会社に管理を委託することで、安定したテナントビルの経営が可能となります。なお、管理会社に依頼する業務には、以下のようなものがあります。
ビル経営が得意な会社に委託すると、清潔感や安全性を維持することができます。また、利益を最大化できていない場合は、経営のアドバイスをもらえるケースもあります。管理会社を選ぶ際は、実績はもちろん、口コミや担当者の対応も見ておくと失敗しづらいです。
今回は、テナントビルを経営するメリットやデメリットについて詳しく解説しました。一口にテナントビルと言っても、オフィスビルや商業用ビルなど、いくつか種類があります。いずれにしても、テナントビルを経営するにあたって、立地条件は非常に重要です。
人通りが多かったり、大通りに面していたりする場所は、テナントビルの経営が成功しやすい傾向にあります。周辺環境やその地域のニーズをしっかり調査したうえで、適しているかどうか判断することが重要です。
MLINEはテナントビルの経営にまつわるノウハウを兼ね備えています。テナントビルの経営を検討している方は、ぜひお気軽にご相談ください。
2024/11/29
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