小林 眞一郎 ou2株式会社 常務取締役 二級FP技能士
賃貸併用住宅というのは「賃貸」と「住居」が一体化した物件になります。
そのため、さまざまなケースにおいて「住居」と「賃貸」のどちらをどれくらいの割合で判断するのかという判断が必要です。
それは物件を相続した場合も同じで、土地や建物を相続すると相続税を現金で納めないといけません。
そのようなことから、「現金で相続税の納税ができないから、相続したものを手放すしかない…」と考えてしまう人もいるのが現実。
しかし、賃貸併用住宅は相続税対策に非常に有効に働きます。
そこでこの記事では、どうすれば賃貸併用住宅の相続税評価額を抑えられるのかを解説していくので、詳しく知りたい人はチェックしてみましょう。

ここでは、賃貸併用住宅で相続税を有効活用できる3つの理由について紹介していきます。
賃貸併用住宅を相続すると、一戸建や賃貸アパート、マンション、または現金を相続するのと比べ、どのようなメリットが発生するのかを把握する必要があります。
一見、とっつきづらく見える賃貸併用住宅を相続するというプレッシャーも、まずは相続税に対するメリットや活用する理由を知ることで、スムーズに対策できるようになるでしょう。
以下で解説していきます。
亡くなった被相続人から相続する場合や相続する場合などにかかる相続税率は相続税評価額によって左右されます。
例えば、現金を相続する場合は相続税評価額はそのまま相続する現金に直結するので、1,000万円を相続したら相続税評価額は同じく1,000万円です。相続税評価額1,000万円以下は税率10%、5000万円以下は税率20%、1億円以下は税率30%、2億円以下は税率40%と、相続する金額によって税率が厳格に決まっています。
それでは、賃貸併用住宅のような不動産を相続した場合はどうなのかというと、不動産を相続すると、現金を相続するよりも財産の評価額が低くなる傾向にあります。つまり、不動産にかかる相続税評価額は時価のおよそ8割になるので、普通に現金を相続するよりも相続税評価額が2割低くなる可能性があるのです。
例を挙げると、2億円の資産を相続した際に現金2億円を相続するのに比べると、賃貸併用住宅を相続した場合はその8割の1億6,000万円を相続したことになります。結果、2億円の価値がある賃貸併用住宅を相続した場合、現金2億円を相続した場合に比べて、4,000万円分を相続税評価額で得ができるということになるのですね。
土地が限られた都市部であるほど、賃貸併用住宅の有用性が上がります。その結果、相続した賃貸併用住宅が「小規模宅地の特例」の適用対象になる可能性があります。
小規模宅地の特例の対象になるのは、亡くなった被相続人が相続する不動産を「特定居住用宅地等」「特定事業用宅地等」「貸付事業用宅地等」として用いていた場合です。賃貸併用住宅は「住居」と「賃貸」の両方の意図で活用していることが多いことから、3つのうちのどれか一つに該当する可能性が非常に高まります。
これら小規模宅地の特例が適用されると、該当する土地の相続税評価額を5割から8割減らすことが可能です。
特例が適用される条件は「相続前から被相続人と同居していた居住用の宅地」「相続前から被相続人と共同で事業用に用いていた事業用地」「相続開始〜相続税の申告期間の間、相続した宅地の利用を継続」等があり、不動産の利用状況、相続人側の状況を個別に判定する必要があります。
その上で、小規模宅地の特例には以下のように宅地(建物がある敷地)の限界面積が設けられていて、以下の通りです。(限度土地面積は個々の判定ではなく、該当するすべてのものの合算となります。)
〈小規模宅地の特例の限界面積と減額率〉
このように、小規模宅地の特例とは条件を満たすと最大で400平方メートルまでの宅地の相続税評価額を80%減額させられるのです。
他にも、賃貸併用住宅は「住居」であることから住宅ローンの借り入れをして低金利で高額の借り入れができ、加えて団体信用生命保険の加入も可能。住宅ローンと契約し、団体信用生命保険に加入ができれば借主が亡くなるなどして返済が難しくなっても、返済残高の一部か全額が免除されます。
賃貸併用住宅の大きな特徴は、自宅としての役割に加え、賃貸部分から家賃収入を得られる点にあります。
そのため、相続後に相続税の支払いが必要になった場合でも、入居者から得る家賃収入を税金や維持費の支払いに充てることが可能です。現金や一戸建て住宅のように、相続後すぐに資金繰りに悩むリスクを軽減できるのは大きなメリットといえます。
もちろん、家賃収入は不動産所得として所得税や住民税などの課税対象になりますが、継続的に得られる安定収入があることで、現金資産を減らすことなく相続後の支出をまかなえる点が強みです。さらに、建物の修繕や設備の更新にかかる費用は確定申告時に必要経費として計上できるため、税負担の調整もしやすくなります。

賃貸併用住宅が相続税において小規模宅地の特例になり、家賃収入による現金を得られることがわかりました。
それでも「相続税がどれだけの大金になるのか」というのは、しっかりイメージするのが難しく、実際に相続する上で大きな不安になることでしょう。
原則として、賃貸併用住宅は住居用の一戸建と比べ、家主以外の第三者が入居しているため、通常の一戸建住宅よりも相続税の評価額が下がる傾向にあります。第三者に賃貸している土地を貸宅地、貸家建付地と言い、賃貸している建物を貸家と言い、借地権割合や借家権割合として評価額を減額させられます。
ここでは「相続税の評価は賃貸併用住宅においてはどのように決まるのか?」という観点から土地・建物・使用貸借に関する評価をまとめたのでご覧ください。
まずは、賃貸併用住宅の土地部分について、その評価額がどのように算出されるかを見ていきましょう。
賃貸併用住宅は、建物の利用状況に応じて「住居」か「賃貸」かに区分して評価を行います。また、土地の利用状況によっては「小規模宅地等の特例」の適用対象となる場合もあります。
「自用地評価」の計算式は路線価地域か倍率地域で計算式が変わり、路線価地域なら「路線価×地積(土地面積)」、倍率地域なら「固定資産税評価額×倍率」という算出式になります。そして、「貸家建付地評価」は「自用地価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)」という計算式で求められます。
その場合、「特定居住用宅地等」に該当する部分は、相続税評価額が80%減額となり、「貸付事業用宅地等」に該当する部分は、相続税評価額が50%減額になる計算です。
次に、賃貸併用住宅の建物部分についての評価方法を見ていきましょう。
建物の相続税評価額は、「固定資産税評価額」を基準として算出されます。
賃貸併用住宅においては、土地の評価と同様に、建物の利用形態に応じて「自宅部分」と「賃貸部分」に区分して評価を行うのが基本です。
自宅部分については、固定資産税評価額をそのまま相続税評価額として用います。一方、賃貸に供している部分は、入居者がいることにより自由な利用が制限されるため、評価額が一定割合で減額されます。一般的には「固定資産税評価額 × 70%」で算出するのが原則です。
このように、建物部分の評価は土地に比べて比較的シンプルに算定できます。ただし、建物全体のうちどの程度を自宅として使用し、どの程度を賃貸に回しているかによって評価額が変わるため、利用割合を正確に区分することが重要です。
賃貸物件において、第三者が部屋に入居しているだけでなく「使用貸借」という形で入居していることもあります。
「使用貸借」とは、本来は入居用の部屋を「友人から無償で住まわせてもらっている」や「親戚などで居候させてもらっている」等の無償またはそれに近い状態で貸し借りをしていることを指します。
このことからも「無償での貸出というのは贈与に当たるのではないのか?」と疑問に思う方もいることでしょう。
しかし「使用賃借」は借地借家法等による法的な権利が一切付与されていないものを貸出しているというだけですので、贈与税の対象になりません。(場合によっては、借地権の譲渡所得として所得税の課税が生じる可能性があります。)これは、無償の貸出のみならず、極めて安い価格で貸出をしている場合も同様に、権利の「使用賃借」と見なされます。
また、無償の貸出が「使用賃借」と見なされるのは賃貸併用住宅が「住居」と判断されるか「賃貸」と判断されるかにも関係します。「使用賃借」と判断された物件は、権利が0となるために「住居」と判断された場合に発生する自用地評価となり、相続税評価額の減額はないということになるのです。
つまり、「賃貸」と判断された場合に発生する借地・借家権割合などの減額措置は適用されないということですね。
無償で賃貸物件に住まわせてもらうなどの「使用賃借」は贈与にはあたりませんが、相続税評価額の減額措置の対象にもならないので、そこでバランスを取っていると考えられます。
小規模宅地等の特例との関係(賃貸併用住宅)
賃貸併用住宅が小規模宅地等の特例の適用を受けるには、被相続人が対象の土地を次のいずれかの用途で利用している必要があります。
ただし、「使用貸借」の土地は、原則として特定事業用宅地等や貸付事業用宅地等には該当しません。一方で、被相続人本人または同一生計の親族が居住用として利用している場合には、特定居住用宅地等として小規模宅地の特例の対象となる可能性があります。
特定居住用宅地等として小規模宅地の特例を適用するためには、主に次のような条件を満たすことが必要です。
・相続開始直前時点で、被相続人本人または同一生計の親族が実際に利用していること
・その他、居住用宅地としての継続利用や相続人の取得・保有状況など、法定要件を満たしていること
このように、使用貸借の有無や土地の利用形態によって、相続税評価額や特例の適用可否が変わることを理解しておくことが重要です。また、具体的な適用可否や評価額の計算は、物件の状況や契約内容によって個別に判断されるため、税理士などの専門家に確認することをおすすめします。


賃貸併用住宅が評価額の減額に大きく役立ち、小規模宅地の特例によって、相続税の大幅な減額もされるのはわかりました。
しかし、賃貸併用住宅にはそれ以外にも相続税に関するさまざまな要素が絡みます。
賃貸併用住宅の「賃貸」と「住居」が混在する場合、管理会社がクレーム対応をしてくれるのか、確定申告の有無などといったことを、賃貸併用住宅を相続する上で重要です。
相続税といった大きなハードルを乗り切って気分良く賃貸併用住宅を相続するために、いくつかよくある質問をまとめたので確認していきましょう。
賃貸併用住宅では「住居」と「賃貸」のエリアが混在するため、相続税評価はやや複雑になります。相続税評価額は、賃貸併用住宅全体の自用地評価額を基準にして、居住用部分と賃貸部分の面積や借家権・借地権の割合に応じて減額を適用して求めます。
居住用部分:路線価地域では「路線価 × 地積」、倍率地域では「固定資産税評価額 × 倍率」によって算出されます。
賃貸部分:自用地評価額に対し、借家権割合や借地権割合、賃貸部分の面積割合を乗じて減額します。
なお、評価額の計算に用いる借家権割合や借地権割合は、物件の所在や契約内容により変わります。実際の相続税申告の際には、税理士などの専門家に確認すると良いでしょう。
賃貸併用住宅は「住居」と「賃貸」の距離が非常に近く、その上で入居者にどんな方が来るのか実際に見てみないとわかりません。
入居者が友だちと毎晩騒いだり、ゴミ出しの仕方に問題があったり、駐輪場や駐車場の出入りに難があることで、近隣住民からの家主への印象が下がってしまうリスクがあります。また、賃貸併用住宅は入居者と家主が同じ屋根の下に暮らすということから、クレームをしやすい状況にもあるのです。
これにより、例えば副業として賃貸併用住宅の運営をしたいなど考えている方は、常にクレームが来ることに緊張しないといけなくなり、メンタル面で追い詰められてしまうことも。また、管理会社と契約をして「クレームはこちらに連絡を」と周囲に伝えることで、家主にクレームが行く数と頻度を下げることはできますが、それでも同じ建物に住んでいると、避けられないこともあります。
しかし、仮に家主に直接クレームが来ても、家主がクレームに対処する必要はありません。
「そういったことは管理会社に任せているから、後でこちらから連絡しておきます」と伝えるなどし、後日管理会社にそのことを話しましょう。管理会社の助けを存分に借りるのが賃貸併用住宅でのクレーム処理を乗り切るコツです。
賃貸併用住宅は「賃貸」によって収入が発生します。
年間20万円を超える収入がある場合は、必ず確定申告をしましょう。
「確定申告なんて面倒くさい」と考えても不思議ではありませんが、実際は確定申告は大きな減税チャンスになります。
「年間収入-必要経費=年間所得」とし、所得を申告するのが確定申告ですが、賃貸併用住宅においては多くのことを「経費」に申告できます。
〈経費に申告できる主なもの〉
以上の不動産賃貸業に対応する部分を「経費」として申告でき、実質的な年間所得を減額することで節税できます。
節約のためにも確定申告は必ず行いましょう。

「住居」と「賃貸」が合わさった賃貸併用住宅は非常に複雑にできていて、相続税の納税に関しても同じことが言えます。ただ、きちんとした知識を得ることで、小規模宅地の特例のような減額措置をすることは可能で難しい話ではありません。
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2025/11/30
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