小林 眞一郎 ou2株式会社 常務取締役 二級FP技能士
不動産を所有している方にとって、毎年納付が求められるのが「固定資産税」です。
一般的に住宅は経年とともに資産価値が下がるため、それに伴い固定資産税も徐々に減少していくとお考えの方が多いかもしれません。
しかしながら、鉄骨住宅においては固定資産税が下がりにくい傾向があることをご存じでしょうか。
本記事では、鉄骨住宅の固定資産税が下がりにくい理由について、木造住宅との比較を交えながら、構造上の特性および税制上の仕組みの両面から詳しく解説いたします。
さらに、固定資産税が下がりにくいという特性がありながらも、鉄骨住宅を選ぶことが長期的に見て有益である理由についてもあわせてご紹介いたします。鉄骨住宅をご検討の方はぜひ参考にしてください。
鉄骨住宅とは、柱や梁などの主要な構造部分に鉄骨を用いた住宅のことです。耐震性・耐久性・デザイン性に優れていることが大きな特徴で、特に地震が多い日本では、安心して長く暮らせる住まいとして高い人気を誇っています。
ここでは、鉄骨住宅の種類やそれぞれの特徴について、わかりやすく解説します。
鉄骨住宅は、使用する鋼材の厚みによって「軽量鉄骨」と「重量鉄骨」に分類されます。以下は両者の主な違いをまとめた表です。
項目 | 軽量鉄骨 | 重量鉄骨 |
---|---|---|
鋼材の厚さ | 6mm未満 | 6mm以上 |
主な用途 | 戸建住宅、小規模な商業施設など | マンション、大型商業施設など |
建築コスト | 比較的安い | 高くなりやすい |
工期 | 短め | 長め |
耐震性・強度 | 一般的な耐震性 | 高い耐震性・強度 |
設計自由度 | 柱を減らせて広い空間を確保しやすい | 大きな開口部を取りやすく自由度が高い |
施工のしやすさ | 軽くて加工しやすい | 重くて基礎工事が重要 |
軽量鉄骨は主に戸建住宅などに用いられ、比較的安価で工期が短く済む点が特徴です。鋼材が軽く加工もしやすいため、広々とした空間を作りやすいといった利点があります。
一方、重量鉄骨は強度が高く、地震や台風などの自然災害にも強い構造を実現できます。主にマンションや大型施設に使われ、大きな開口部がとれることから設計の自由度も高いです。ただし、鋼材が重いため、基礎工事には十分な配慮が必要になります。
鉄骨住宅は耐久性と耐震性に優れた構造のため、安心して長く暮らせる住まいです。適切なメンテナンスを行えば、60年以上使い続けることも可能とされており、経年劣化が少ないため、資産価値を長く保てるのも大きなメリットです。
また、地震に対しても強く、揺れによる倒壊のリスクを抑えられる点は、大きな安心材料といえるでしょう。
一方で、鉄骨住宅の性能の高さが固定資産税に影響を及ぼす場合があります。
鉄骨住宅は木造住宅に比べて建築費用が高いため、再建築価格の評価も高くなりやすいです。その結果、税額が増える傾向にあります。加えて、資産価値が下がりにくいことから、築年数が経過しても評価額が減少しづらく、固定資産税も高止まりするケースが見られます。
鉄骨住宅を検討する際は、構造的な安心感だけでなく、長期的な維持コストも踏まえて総合的に判断することが大切です。
ここからは、そもそも固定資産税とは何か、そして鉄骨住宅における固定資産税の仕組みや特徴は何かについて詳しく解説いたします。
木造住宅との評価の違いを確認することで、将来的な税負担を正確に見通すことが可能になるでしょう。
固定資産税とは、固定資産を所有している方に課される市町村税のことです。固定資産には、住宅や店舗などの家屋、田や畑などの土地、機械や工具などの償却資産が含まれます。
マンションやアパート、一戸建てに賃貸で住んでいる場合は、所有者ではないため固定資産税の支払い義務は生じません。あくまで、所有している資産に対してのみ課税されます。
毎年1月1日時点で土地や家屋、償却資産の所有者として固定資産課税台帳に登録されている方に対して、6月(第1期)、9月(第2期)、12月(第3期)、2月(第4期)の年4回、納付が求められます。
鉄骨住宅の場合は、固定資産税が木造住宅よりも高くなる傾向があります。
鉄骨住宅は耐震性や耐久性が高いうえ、建築費用も高くなりやすいことが主な理由です。より詳しい理由については後述するので、参考にしてください。
固定資産税は、課税標準額に税率をかけて算出されます。基本的な計算方法は以下の通りです。
なお、固定資産税には一部軽減措置が設けられる場合があります。
鉄骨住宅の固定資産税評価額は、新築時の建築費の60〜70%程度で算出されることが一般的です。例えば建築費が1,500万円の場合、評価額は約900万円から1,050万円程度となります。この評価額が課税標準額として用いられます。
固定資産税額は先ほどの課税標準額に標準税率の1.4%をかけて算出されます。計算式は「固定資産税額 = 課税標準額 × 1.4%」です。
また、市街化区域内に所在する場合は都市計画税が課せられ、その標準税率は0.3%です。都市計画税額は課税標準額に0.3%をかけて計算し、固定資産税額と合算して納税する必要があります。
以下は鉄骨住宅の固定資産税の具体例です。
項目 | 計算式 | 金額 |
---|---|---|
固定資産税評価額 | — | 1,000万円 |
固定資産税額 | 1,000万円 × 1.4% | 14万円 |
都市計画税額 | 1,000万円 × 0.3% | 3万円 |
納税額合計 | 固定資産税額 + 都市計画税額 | 17万円 |
なお、評価基準や税率は地域によって異なるため、具体的な金額は住んでいる市町村の案内を確認しましょう。
課税標準額(固定資産税評価額)とは、市町村長が固定資産評価基準に基づいて決定する評価額のことです。固定資産税を計算するうえで重要な指標のひとつです。
固定資産税の税率は、全国一律で課税標準額に対して1.4%です。
ただし、住んでいる市町村によっては異なる場合があるため、詳細は納税先の市町村に確認するとよいでしょう。
課税標準額が一定の基準より少ない場合、固定資産税は課税対象となりません。このことを免税点といいます。
課税標準額が、土地の場合30万円、家屋の場合20万円、償却資産の場合150万円以下であった場合、課税対象外になります。
気をつけるべきポイントは、土地と家屋では課税標準額の基準が異なるということです。
たとえば、土地と家屋を所有していて土地の課税標準額が25万円、家屋の課税標準額が25万円だった場合、土地は課税標準額が30万円未満なので免税となりますが、家屋は課税標準額が20万円を超えているため課税の対象となります。
前述の通り、鉄骨住宅は木造住宅に比べて固定資産税が下がりにくい傾向があります。ここでは、その具体的な理由を以下の4つに分けて解説します。
鉄骨住宅は建築当初から固定資産税の評価額が高めに設定される傾向があります。その大きな理由のひとつが「再建築価格」の高さです。再建築価格とは、現在の建物と同じ構造・仕様で新築した場合にかかる費用を指し、評価額を決める際の基準となります。
鉄材の価格や加工費が木造住宅よりも高いため、鉄骨住宅の建築コストは高額になりやすく、それに伴って再建築価格も高く見積もられます。結果として、鉄骨住宅は初期の評価額が木造住宅よりもかなり高く設定されることが一般的です。
鉄骨住宅は構造上の耐久性に優れ、劣化のスピードも木造住宅に比べて遅いのが特徴です。そのため、築年数が経っても評価額が大きく下がりにくく、固定資産税の基礎となる金額も高い水準を維持しやすくなります。
加えて、鉄骨は自然災害にも強く、外部からの衝撃にも耐える堅牢な素材です。適切なメンテナンスを行えば60年以上使用されるケースも珍しくないことから、市場価値の面でも価格が下がりにくい傾向にあります。築30年の鉄骨住宅に一定の需要がある一方、木造住宅では資産価値の低下が顕著なケースも多く見られます。
このように、構造的な強さと市場での価値の持続性も、鉄骨住宅の固定資産税が下がりにくい根本的な理由のひとつです。
法定耐用年数とは、税法上で建物が「使用可能」と認められる期間です。木造住宅の耐用年数が約22年であるのに対し、鉄骨住宅は最大34年と長く設定されています。
この法定耐用年数の違いにより、評価額の減少(減価償却)が木造より緩やかに進みます。結果、課税対象となる評価額が長期間高く残り、固定資産税の負担も長く続くことになるのです。
固定資産税の評価額は、原則として3年ごとに「評価替え」が行われます。これは、建物の経年劣化などを踏まえて、課税の基準となる評価額を見直す制度です。
鉄骨住宅は耐久性が高く、経年による劣化がゆるやかなため、評価替えのタイミングでも評価額が大きく下がりにくいという特徴があります。
たとえば、木造住宅では築約25年で評価額が下限に達するのに対し、鉄筋コンクリート造の共同住宅では約60年かかるとされています。鉄骨住宅はこの中間にあたる構造であり、評価額の下がり方も比較的ゆるやかです。そのため、長期間にわたって固定資産税の負担が続く傾向があります。
なお、評価額の下限は建築当初の20%と定められており、それ以下には下がりません。すでに下限に達している場合は、評価替えがあっても評価額が変わらないこともあります。
出典:家屋の税額が下がらないのはなぜ – 高崎市公式ホームページ
固定資産税が下りにくい鉄骨住宅ですが、節税対策できる方法ももちろんあります。具体的な節税方法を3つ紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
固定資産評価額を下げる方法として、1枚の登記簿(一筆)から土地を分ける『分筆』があります。
大きな土地が一筆であると、大通りに面している土地も内側の利便性が低い土地も、同じ評価額となってしまいます。その際、分筆することで利便性が低い土地の評価額を下げることができるのです。
また、後述しますが非課税の『道路』にあたる土地も分筆することでつくり出すことができる場合もあるため、こちらも節税につながります。
ただ、分筆する場合は登記や測量といった費用がかかります。分筆することで減税できる額と費用を比べた上で、本当に分筆するべきなのかを考える必要があります。
私有地であっても、公園や私道といった公益性の高い土地は固定資産税が非課税となります。
このような条件を満たす場合、私有地であっても私道と認められる場合があります。
私道は申告制になっているため、申告しない限りは非課税となりません。所有地に私道が含まれる人は各自治体に申告しましょう。
小規模住宅用地とは、住宅用の土地で1戸あたり200平米までのものを指し、固定資産評価額が6分の1に軽減されるものです。
また、住宅用地であれば、小規模住宅用地の範囲を超えても固定資産評価額が3分の1になるので、節税に役立ちます。
住宅用に利用されている土地は、小規模住宅用地の特例というものが適用されるため大幅に節税することができます。
さらに、固定資産税のみならず都市計画税も小規模住宅用地は3分の1、それ以外の住宅用地は3分の2に軽減することができます。
固定資産税が下がりにくい鉄骨住宅ですが、高い資産価値をキープし続けられるのは大きな魅力です。
節税対策をしっかりとしつつ、安心の住居と資産を生み出す環境を所有し続ける工夫を続けていきましょう。
2025/06/30
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