小林 眞一郎 ou2株式会社 常務取締役 二級FP技能士
マンションを賃貸経営する際、税務署に開業届を提出し個人事業主として経営する方法があります。
しかし、個人事業主としての経験がない場合、具体的なメリットや節税方法がわからない方も少なくないでしょう。
そこで本記事では、個人事業主としてマンション賃貸経営をするメリットやデメリットについて解説します。また、マンション経営の大きな利点である節税方法についてもまとめました。これから個人事業としてマンション経営を検討している方は、ぜひお役立てください。
マンション経営を個人事業として行うメリットは、以下の5つが挙げられます。
それぞれ解説します。
1つ目のメリットは、青色申告の特典を受けられることです。青色申告とは、所得税の申告制度の1つで、一定の要件を満たすことで様々な税制上の特典を受けられる制度です。具体的には、以下のような特典があります。
特典名 | 内容 |
---|---|
青色申告特別控除 | 複式簿記+期限内提出で最大55万円控除、電子帳簿保存またはe-Tax申告で最大65万円控除、その他は最大10万円控除 |
青色事業専従者給与 | 生計を一にする15歳以上の親族への給与を、届出範囲内かつ適正額で必要経費に算入可能(専従者は扶養不可) |
貸倒引当金 | 売掛金・貸付金などの貸倒れ見込み額を年末残高の5.5%以内(金融業は3.3%)で必要経費に算入可能 |
純損失の繰越しと繰戻し | 損失を翌年以降3年間(特定非常災害は最長5年間)繰越控除、または前年に繰戻して税還付可能 |
出典:青色申告制度|国税庁
このように、青色申告にすることで、節税に効果的な複数の特典を受けられます。ただし、青色申告するためには、開業から2か月以内に申請書を税務署に提出する必要があります。事業を始める際には、開業届を提出すると同時に青色申告の申請も行うとよいでしょう。
2つ目のメリットは、青色申告を行うことで経費計上の範囲を広げられることです。経費の範囲が広がれば課税所得を抑えられるため、節税効果を高めることができます。
具体的には、以下のような項目が経費として計上できます。
上記に加え、貸倒引当金が経費として計上できる点も重要なポイントです。貸倒引当金とは、将来的に回収が難しいと予想される金銭債権のことを指します。マンション経営では、夜逃げや借主の自己破産などによって、家賃が回収できなくなるケースが該当します。
将来の備えができ、かつ経費に計上できることは大きなメリットでしょう。
マンション賃貸経営で経費にできる項目については、本記事の「個人事業主がマンション賃貸経営で経費にできる主な項目」でも詳しく紹介しています。
3つ目のメリットは、開業の開始年から小規模共済に加入できることです。小規模共済とは、中小企業や個人事業主を対象とした制度で、将来の退職金や事業引退時の資金を積み立てられる制度です。
事業を開始した年度から加入するためには、開始年のうちに税務署に開業届を出している必要があります。開業届けが無くても加入できますが、その際には確定申告書の写しの提示が必要になるため、確定申告していない初年度には加入することができません。
初年度から小規模共済に加入することで、早い段階から退職金の積み立てを開始できることはメリットでしょう。さらに、小規模共済で支払った掛金は所得控除の対象となるため、節税にも有効です。
4つ目のメリットは、補助金や助成金が受けやすくなることです。補助金や助成金の申請には開業届が必要な場合もあるため、個人事業主として経営していることは利点となるでしょう。
マンション経営における補助金は多岐にわたり、時期や制度の変化によって内容が変わります。2025年8月現在、国や地方自治体が提供する補助金や助成金には、以下のようなものがあります。
他にも様々な補助金や助成金が用意されています。どの制度が使えるのか把握するには、専門家に相談することをおすすめします。
5つ目のメリットは、法人化よりも手続きがシンプルな点です。個人事業主の場合は、税務署に開業届を提出するだけで手続きが完了します。
一方、法人化する場合は手続きが複雑になります。例えば、会社の概要を決め、法人の定款や実印を作成する必要があります。また、法務局で登記申請書類を提出することも欠かせません。さらに、税務署や都道府県事務所、市町村役場、年金事務所、労働基準監督署、ハローワークなどへの書類提出が必要です。
このように、法人化には費用や手間が多く発生します。個人事業主の方が、手間や費用をかけずに事業を始められるのがメリットです。
なお、マンション経営を始める際には、個人事業主として運営するか、法人化するかで悩む方も多いでしょう。以下の記事では、マンション経営を法人化するメリットとデメリットについて詳しく解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
続いて、マンション賃貸経営を個人事業として行う3つのデメリットを紹介します。
デメリットを把握することで、事前に対策を立てやすくなります。大切なポイントなので、ぜひチェックしてください。
個人事業主として開業すると、所得税や住民税に加えて、個人事業税の納付が必要になります。個人事業税は、事業から得た所得に対して課される地方税です。マンション経営では、貸室数が10室以上の場合には「不動産貸付業」として扱われ、5%の税率が適用されます。
ただし、個人事業税には年間290万円の事業主控除があるので、年収が290万円を超える部分に対して5%の税率がかかると覚えておきましょう。例えばマンション経営の年間総収入が1,000万円で、必要経費が400万円の場合、計算手順は以下のようになります。
個人事業税は確定申告時に申告し、所得税の計算と一緒に行います。また、支払った個人事業税は経費として計上できます。
個人事業主が青色申告をすると、多くのメリットがあります。
しかし、白色申告と比べて記帳の手間が増える点はデメリットといえるでしょう。
特に、65万円の特別控除を受けるには複式簿記で記帳する必要があり手間がかかります。青色申告は、会計の知識が必要なうえ、記帳に時間がかかることを理解しておきましょう。
とはいえ、最近では便利な会計ソフトが多数普及しています。不動産に特化したソフトもあるので、記帳の際には上手く活用することをおすすめします。
仕事を辞めて開業する場合、少しでも収入を得るために失業保険を受給したいと考える人もいるでしょう。しかし、個人事業主になると失業保険の受給資格を失います。
当然ですが、個人事業を開始したら、ハローワークに報告する必要があります。報告せずに失業保険を受け取ると不正受給とみなされ、受給した金額を返還しなければなりません。さらには、罰則を受ける可能性もあります。
失業保険を受け取る予定の場合は、対象外にならないように開業のタイミングを調整することが重要です。
マンション賃貸経営では、多くの支出を経費として計上できます。適切に管理することで、税負担を大きく抑えられるでしょう。主な経費項目は、以下の通りです。
上記の項目を経費として計上するためには、領収書を保存し、支出が事業に関連していることを証明できるようにしておくことが重要です。また、自宅を事務所と兼用している場合は、家賃や光熱費を事業用の割合に応じて正確に按分することを忘れないようにしましょう。
経費として計上できる項目を適切に管理することで、節税効果を高めつつ、確定申告にしっかり備えることができます。
個人事業主のマンション賃貸で節税可能な税金は、主に以下の4つです。
賃貸経営において、節税は重要な項目です。順に説明します。
マンション経営にかかる費用を確実に経費として計上することで、所得税を節税できます。なぜなら、不動産所得の金額は、総収入金額から必要経費を差し引いた額が所得税の課税対象になるからです。具体的な算出方法は以下の通りです。
総収入金額 – 必要経費 = 不動産所得の金額
さらに、小規模企業共済制度を利用することも所得税の節税に有効です。小規模企業共済制度とは、中小企業や個人事業主を対象とした制度で、将来の退職金や事業引退時の資金を積み立てられるものです。支払った掛金は、所得控除の対象となるので、所得額を効果的に減らせます。
複数の事業をしている場合、損益通算を使って住民税を節税できます。損益通算とは、複数の事業や投資の利益と損失を合算した結果に対して課税される仕組みです。
例えば、マンション経営が赤字の場合、給与所得からマンション経営のマイナスが差し引かれ、収支の相殺が可能になります。これにより、住民税の課税対象額を削減することができます。
また、しっかりと経費計上をして所得額を減らすことも住民税の節税に有効です。
更地を所有している場合、賃貸物件を建てることで固定資産税が削減されます。固定資産税は、土地や建物などの不動産にかかる税金です。土地の上に建物があれば、「小規模住宅用地の特例」が適用され、固定資産税が大幅に節税できる可能性があります。
マンション経営では、更地や駐車場などの建物が建っていない土地と比べると、固定資産税を大幅に軽減できることがポイントです。
相続税は、亡くなった親から相続した財産に支払う税金で、財産の評価に応じて金額が決まります。
相続税を節税するためには、評価を下げることが有効です。例えば、現金よりも同等の価値がある不動産を所有しているほうが、評価が下がります。また、すでに土地を所有している場合は、賃貸を建てたほうが「貸家建付地」として評価額が減額されることがあります。
マンション賃貸経営を個人で行う際、以下のようなリスクが伴います。
ここからは、それぞれのリスクの具体的な内容と対策について詳しく説明します。
空室リスクとは、マンションに入居者がいない期間が続くことで家賃収入が得られず、経営に大きな影響を与えるリスクのことです。入居者不足は収益を減らし、安定した賃貸経営を難しくします。空室リスクを軽減するためには、原因を正しく把握し、適切な対策を講じることが不可欠です。
以下に、空室リスクへの具体的な対策方法をまとめました。
対策内容 | 具体例・ポイント |
---|---|
賃料の見直し | 周辺相場に合わせて適正価格に設定。必要に応じて家賃を引き下げる。 |
リフォーム・リノベーション | 内装や設備を改修し、物件の魅力を高める。ターゲット層に合わせた改修が効果的。 |
入居者募集方法の工夫 | インターネットやSNSを活用し、魅力的な写真や詳細情報を提供する。 |
管理会社の活用 | 専門的な入居者募集や管理を委託し、空室率低減を図る。 |
入居者満足度の向上 | 定期的にコミュニケーションをとり、要望や不満点を把握し改善する。 |
空室リスクの主な原因には、立地や周辺環境の悪さ、建物の老朽化や設備の劣化、近隣の新築物件による競争激化、そして賃料設定の高さがあります。これらの問題に対応するためには、賃料を適正に見直し、物件のリフォームやリノベーションで魅力を高めることが効果的です。また、インターネットやSNSを活用した募集方法の工夫も欠かせません。
個人での対応が難しい場合は、信頼できる管理会社に物件管理を任せるのがおすすめです。専門的なノウハウを持つ管理会社が関わることで、空室率の改善につながる可能性が高まります。
以下の記事では、不動産投資における賃貸需要について詳しく解説しています。賃貸需要を正しく理解しておくことは、空室リスクを軽減し、安定した賃貸経営を行ううえで重要です。ぜひ参考にしてみてください。
災害リスクとは、地震や火災、洪水などの自然災害により物件が損傷したり、入居者の安全が脅かされたりするリスクのことです。災害リスクに備え、適切な対策を講じることがマンション賃貸経営の安定には不可欠です。
以下に、災害リスクに対する具体的な対策方法をまとめました。
対策内容 | 具体例・ポイント |
---|---|
耐震性の確保 | 建物の耐震診断と必要な耐震補強工事を実施。新耐震基準を満たす物件を選ぶことも重要。 |
保険の加入 | 火災保険や地震保険に加入し、災害による損失をカバー。地震保険は必ず検討すること。 |
定期点検・メンテナンス | 外壁、屋根、配管などを定期的に点検し、劣化や損傷を早期発見・修繕して被害を軽減。 |
避難経路の整備・周知 | 入居者に避難経路や避難場所を周知し、災害時の行動計画を共有。災害情報アプリの活用も推奨。 |
防災備品の備蓄 | 食料や水、医療品などの防災用品を備蓄し、安心して在宅避難できる環境を整える。 |
これらの対策を継続的に行うことで、災害による損害を最小限に抑え、入居者の安全を守ることが可能です。自然災害はいつ起こるかわからないため、日頃からの備えと管理が重要となります。
マンション賃貸経営における老朽化リスクは、建物や設備が時間とともに劣化し、修繕やメンテナンスが必要になることを指します。老朽化リスクを放置すると、物件の価値が下がるだけでなく、入居者の安全や快適さにも悪影響を及ぼす可能性があります。
以下は、老朽化リスクに対する具体的な対策方法をまとめたものです。
対策内容 | 具体例・ポイント |
---|---|
定期的な点検とメンテナンス | 外壁・屋根・配管の劣化を早期発見し、必要な修繕を実施する。 |
長期修繕計画の策定 | 12〜18年ごとに大規模修繕を計画的に行い、資金を事前に準備する。 |
リフォーム・リノベーション | 老朽化部分を改修し、物件価値を向上させて入居者ニーズに応える。 |
入居者とのコミュニケーション | 定期的にフィードバックを受け入れ、快適な住環境を提供して退去を防ぐ。 |
適切な保険の加入 | 火災保険・地震保険など、老朽化による事故や損害に備えた保険に加入する。 |
定期的な点検を怠ると劣化箇所の悪化が進み、大規模な修繕が必要になることもあるため注意が必要です。また、適切なタイミングでリフォームやリノベーションを実施し、物件の魅力を維持することも入居者のニーズに応えるうえで効果的です。
日頃から老朽化リスクへの対策を着実に実行することで、劣化を抑え、長期にわたって安定した賃貸経営を維持できるでしょう。
最後に、個人事業主のマンション賃貸経営を成功させるポイントを5つ紹介します。
マンション経営で後悔しないためには、これらのポイントを押さえることが重要です。
まずは、適切な物件選びが挙げられます。マンション経営の最大のリスクは空室。空室リスクをできるだけ避けるためには、地域の需要や競合物件との差別化を考慮し、ニーズの高い場所に魅力的な物件を建てることが必須です。
適切な物件は地域によって異なります。例えば、大学の近くで学生が多い街では、学生向けのワンルームが適しています。一方、ベッドタウンでは、ファミリー向けの広いマンションの方がニーズに合います。
また、競合物件と差別化するために、魅力的な設備やサービスを取り入れることも大切です。例えば、高速インターネットサービス、宅配ボックス、セキュリティーシステムが完備されたマンションは、どのようなターゲットにも魅力的でしょう。
次に、複数の専門家の意見を聞くことが挙げられます。
マンションの建築を相談する際には、1つの会社だけでなく、複数の建築会社に相談することをおすすめします。なぜなら、マンションの設計や建築費にはさまざまなバリエーションがあるからです。
複数の企業から提案を受けることで、初期費用や建築費、ランニングコスト、収支計画などをじっくり比較検討できます。また、自分に最適なプランを見つけやすくなります。
マンション経営を成功させるには、余裕のある資金計画を立てることが大切です。資金計画に余裕がないと、メンテナンスや修繕が必要な時に対応できず、物件の価値が下がってしまいます。また、予想以上に空室が続いた場合も、余裕がなければ経営が難しくなります。
マンション経営では、突然の修繕や予期せぬトラブルが起こることを前提に、資金計画に余裕を持たせ、様々な状況に対応できるように備えておくことが重要です。
個人事業主として、マンションを経営するには、不動産に関する基本的な法律や税金の知識が不可欠です。基本的な知識が無ければ、オーナーにとって不利な内容で契約を結んだり、誤った申告をしてしまう可能性があります。
対策として、マンション経営に役立つ資格を取得するのが良い方法です。例えば、「宅地建物取引士」「ファイナンシャルプランナー(FP)」「マンション管理士」「不動産実務検定」などの資格があります。
これらの資格を取ることで、マンション経営に必要な法律や税金の知識を身に付けることができ、さらに収益性を向上させる効果も期待できます。
マンション経営で失敗しないためのポイントは、管理会社を慎重に選ぶこと。信頼のできる管理会社を見つけられれば、マンション経営の負担を軽減できます。さらに、管理会社のノウハウを学ぶ機会を得られることもポイントです。
また、優れた管理会社は、定期的なメンテナンスや清掃をしっかりと行ってくれるため、入居者の満足度を高められます。その結果、空室リスクが減る、入居者が見つかりやすいなど、経営がスムーズになるでしょう。
不動産管理会社は様々あるので、気になる会社を複数ピックアップし、しっかりと比較することが大切です。
個人事業主でマンションを賃貸経営した場合、税金や助成金、初年度からの小規模共済の加入など、様々なメリットを受けられます。
ただし、個人事業税がかかることや、記帳が複雑になるなどのデメリットについても把握しておくことが大切です。また、節税についても正しく理解しておくことが欠かせません。個人事業主のマンション経営で節税可能な税金は複数あるので、本記事を参考に、しっかりと対策を講じましょう。
加えて、マンション経営を成功させるためには、物件選びから資金計画、法律や税金の知識まで、多岐に渡るポイントが存在します。
まずは、専門家に相談し、賃貸経営についての具体的なプランを提案してもらいましょう。
マンション経営を検討する中で少しでも不安や疑問があるという人は、一度M-LINEにご相談ください。M-LINEでは、ご相談内容に応じて専門的な知識を持ったプロの視点からご提案・サポートを実施しております。
2025/08/28
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