高坂 昇 ou2株式会社 専務取締役 一級建築士
二世帯住宅の完全分離型は、親世帯と子世帯がプライベート空間を確保できる理想の間取りです。「二世帯住宅にするなら完全分離型にしたい!」というご家庭も多いでしょう。
しかし、完全分離型の二世帯住宅でも隣や上下階に親や子世帯と一緒に住むことに「後悔しないのか?」「デメリットがないのか?」と不安に思う方も多いですよね。結論からいうと、完全分離型でも後悔や失敗する事例もあります。
そのため、まずは失敗例やデメリットを把握し、リスクを回避する家づくりをすることが重要なポイント。また、家族でライフスタイルや支払いなどについて、二世帯住宅を建てる前に話し合っておくなどの準備も必要です。
そこで、本記事では完全分離型の二世帯住宅で後悔する失敗例や、後悔しないためのポイントについて徹底解説。完全分離型の二世帯住宅に関するよくある質問についても解説しているので、二世帯住宅を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
二世帯住宅の完全分離型とは、居住空間を世帯ごとに完全に分離させた住宅のことです。玄関・浴室・キッチンなど間取りや設備が世帯ごとに分かれているのが特徴で、親世帯・子世帯で独立した空間になっています。
同居というよりは隣同士や上下に住まいがある賃貸といったイメージで、ライフスタイルを合わせたり、プライバシーを確保できたりするのが完全分離型の大きなメリットです。
ただし、別々の空間を作るためには、その分設計料や土地の広さが必要になり、建築費用が高額になる傾向にあります。
建築コストを抑えるためには、住居の一部分を家族と共用する一部共用型や、リビングやキッチンなどもすべて共用する完全共用型の二世帯住宅の選択肢もあります。
さらに、土地の広さが限られている場合は、無理に完全分離型を建てようとすると空間に圧迫感のある間取りとなってしまうケースもあるので注意が必要です。あえて完全分離型にせず、共用スペースを増やし家自体を広く見せる例もあるため、ハウスメーカーや工務店などに相談しながら家づくりを行いましょう。
二世帯住宅の完全分離型で後悔する失敗例は、以下の5つが挙げられます。
二世帯住宅には、親の資金援助が受けられたり子育てや家事のサポートが受けられたりメリットも多いですが、きちんと対策できていないと後悔するケースも多くあります。失敗例をしっかりと把握し、間取りやルールづくりの参考にしてみてください。
二世帯住宅の完全分離型でも生活音にストレスが溜まり、後悔する例があります。理由としては、ライフスタイルの違いや、二世帯住宅の間取りの設計や設備に配慮できてないケースが多いからです。
例えば、完全分離型でも以下のような後悔した事例があります。
防音や遮音設備を入れても入居するまでは実際に生活音が確認ができないため、実際に住んでみて防音対策をしてもうるさかったと後悔したというケースもあります。
例えば、子世帯が2階ではなく1階の方が足音や物音が気になりにくくなります。こうした生活音については大きなストレスとなる場合があるため、慎重に検討することが大切です。
完全分離型タイプの二世帯住宅は、庭・バルコニー・駐車場を共有する場合が多いです。そのため、完全分離型でも共用スペースで世帯間で顔を合わせる場合も多く、両親の配偶者以外は気を遣うと後悔する事例があります。
また、庭やバルコニーの手入れはどちらがするのか、駐車場の停め方などについてトラブルとなるケースもあるようです。庭は分離することができなくても、バルコニーは別々に用意する、駐車場のルールは事前に決めておくなどの対策が必要でしょう。
完全分離型タイプの二世帯住宅では、両親の介護がストレスとなるケースがあります。理由としては、完全分離型は生活空間を完全に分離しているため不便だからです。
完全分離型は、一部共用型や完全同居型タイプの二世帯住宅と違って、配膳や介助をするために一度玄関を出ないといけません。食事やトイレのたびに頻繁に行き来しなければならなかった場合、空間を共有していた方が移動が楽になります。
上記のように将来的な介護の導線についてもよく考え、間取りや設備を検討するのがおすすめです。
完全分離型タイプの二世帯住宅では、光熱費の支払いで揉めるケースがあります。こちらの問題は完全分離型に限られる訳ではありませんが、「どちらが費用を支払うのか」を事前に決めておかなかったことが問題となる事例が多いです。
二世帯住宅の計画を立てる段階で、水道光熱費はどちらの世帯がどの程度の割合を負担するのか話し合っておくことが大切です。お金の問題は想像以上にトラブルとなるケースがあり、以下のような大きな問題となる可能性もあるので注意しましょう。
【トラブルの例】
完全分離型の二世帯住宅でも、来客に遣うようになったという声も多く聞かれます。理由としては、賃貸や一戸建ての場合の隣人は他人ですが、隣や上の階に親族がいるとなると話し声に気を遣うからです。
たまには、家庭の愚痴などストレスを発散したいという声も多く、なかなか羽根を伸ばしておしゃべりが楽しめないというのは想像以上にストレスとなるかもしれません。
二世帯住宅の完全分離型で後悔しないためのポイントは、以下の3つです。
完全分離型だからといって絶対後悔しないということはありません。さまざまなリスクを考慮したうえで、快適な住まいとなるように準備しておきましょう。
完全分離型の二世帯住宅で後悔しないためには、光熱費や住宅ローンの支払いについて事前に話し合っておきましょう。完全分離型は建築費用も他のタイプと比較して高額になる可能性も高いため、両親の老後や死後なども支払い続けられるのかも確認しましょう。
水道光熱費・電気代・ネット代などの支払いは、世帯ごとに分けておくのがおすすめ。完全に支払いも分かれていれば、割合や使用量に関してもトラブルにならないでしょう。
支払いを一緒にする場合は「誰が支払うのか」「老後はどうするのか」「どのくらいの割合で支払うのか」などをきちんと事前に話し合っておくことが重要なポイントです。
完全分離型の二世帯住宅で後悔しないためには、親の老後や死後についても考慮した間取りにするのがポイント。とくに老後自宅で両親の面倒を見ようと思っている方は、自宅を行き来できる鍵付き扉を作りましょう。
そうすれば必要な際に鍵を開けて両親の元へ行き来できるため、配膳や介助の際に便利です。また、将来賃貸に出せるように設計すれば、親の死後に空いた住居を有効に活用できるようになります。
節税や住宅ローンの支払い対策としても、ライフステージが変化した将来を考慮した家づくりを行いましょう。
完全分離型の二世帯住宅では、家族一人一人のライフスタイルを把握して間取りに取り入れるのが成功のコツです。なぜなら、完全分離型の二世帯住宅で後悔した例では、生活導線やライフスタイルなどに十分に配慮できておらず、失敗するケースが多いためです。
家族全員の活動開始時間・洗濯や掃除を行う時間・帰宅時間などライフスタイルを把握し、できるだけ生活音が気にならないように間取りや設備を工夫することが大切です。
また、どちらか一方の間取りに偏るのではなく、両世帯にとって公平な間取りにするのが二世帯住宅でうまくいくコツでしょう。
ここからは、二世帯住宅の完全分離型に関するよくある質問5つを紹介します。
完全分離型の二世帯住宅を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
完全分離型の二世帯住宅のメリットは、以下の例が挙げられます。
そのため、二世帯住宅でも両親世帯や子世帯との関わり方に不安がある方、将来的に賃貸に出すことも視野にいれている方などにおすすめのタイプです。
完全分離型の二世帯住宅のデメリットは、以下の例が挙げられます。
このように土地の広さによって圧迫感のある間取りとなったり、費用や光熱費が高額になったりするデメリットもあるので注意が必要。家族間でどこまで許容範囲なのか話し合っておきましょう。
完全分離型タイプの二世帯住宅の建築費用の目安は、2,900万円~5,500万円程度です。目安の金額の幅が広い理由については、土地がありかなしか、間取りや設備、グレードなどによって建築費用が大きく変わるためです。
完全分離型は、寝室・リビング・玄関・浴室・洗面所など両世帯のすべての空間を分ける間取りとなるため、二世帯住宅の中でも高額になる傾向にあります。ただし、水周りを1か所のまとめたり、内外装のグレードを落としたり工夫することによって費用を抑えられるでしょう。
次の事例では、完全分離型の二世帯住宅を2,900万円(土地代なし)で建てた事例です。間取り・延べ床面積・家族構成などを紹介するので、参考にしてみてください。
【完全分離型の費用相場の実例】
建築費用 | 約2,900万円 |
間取り | 2LDK+3LDK |
延べ床面積 | 約152㎡(約46坪) |
工法 | 木造軸組 |
家族構成 | 夫婦2人・子ども・両親 |
また、以下の記事では完全分離型・一部共用型・完全分離型の建築費用相場について解説しているのでチェックしてみてください。
完全分離型の二世帯住宅は、最低でも45坪~50坪程度の広さが必要です。理由としては、間取り係数を用いて以下のような計算方法で必要な坪数を算出しました。
【例:両親・子供夫婦・子2人世帯(計6人世帯)】
間取り | 計算方法 |
---|---|
・寝室(8畳×2部屋) ・LDK(10畳×2) ・子ども部屋(5畳×2) ・収納等のスペース(4畳) ・その他分離するスペース8畳 |
間取り合計の58畳×1.6=92.8畳(45.47坪) |
この坪数については、間取り係数(※ゆとり度:1.6~2.0)をかけて、必要な延べ床面積を算出しています。
間取り係数とは、建築家の吉田佳二さんが考案した数値で、係数が大きいほどゆとりのある間取りが算出されるのが特徴。今回の場合は最低限の坪数を求めたかったため、1.6をかけて計算しています。
完全分離型の二世帯住宅でさらにゆとりのある間取りとしたい場合は、50坪~60坪程度の土地が必要になるでしょう。
また、完全分離型以外のタイプの坪数の目安を知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
完全分離型の二世帯住宅で成功した間取りの事例を紹介します。
世帯 | 間取り例 |
---|---|
(親世帯)1階 | LDK(17畳)+洋室6畳+洋室6畳+浴室+トイレ+洗面所 |
(子世帯)2階 | 初LDK(18畳)+多目的スペース(5.5畳)+洋室(5畳)+バルコニー+洗面所+トイレ+シャワールーム |
上記の例では、上下階に2つの広々としたLDKを設置。浴室は2つある訳ではありませんが、シャワールームを完備しているため、共有スペースが重なる時間でも手軽にシャワーで済ませられるように配慮されています。
また、広々としたバルコニーを2階に設置することで、庭のようなプライベート空間を実現しているのもポイント。水回りはまとめつつ、費用面にも配慮しているのも工夫の1つです。
二世帯住宅は完全分離型だからといって後悔しない訳ではありません。しかし、失敗や後悔する事例は、お互い話し合いができていなかったり、生活リズムについて把握していなかったりする場合が多くあります。
そのため、家族で二世帯住宅について話し合いを行い、ライフスタイルを把握して生活音に配慮する間取りにしたり、事前に生活におけるルールを決めたりすることが必要です。
二世帯住宅のデメリットを補うような間取りや設計にすることで、子育てや介護がしやすいなどメリットを活かせる二世帯住宅が建てられます。
M-LINEでは、二世帯住宅の設計や実績が多数あり、後悔しない間取りについてアイデアを提案させていただきます。「他のハウスメーカーでは断られた」「空間を有効活用できる間取りにしたい」などどんな内容でも一度ご相談ください。
ご家族一人一人のご要望を伺った上で、二世帯住宅の家づくりのエキスパートが家づくりのアイデアを提案させていただきます。
2024/11/29
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